2004年4月3日 朝日新聞掲載
デリーメトロ 〜 中川 龍士





インドという国は、実に不思議な国です。
五千年の歴史と十億の人口。
途方もないスケールに、初めて訪れた人は、まず圧倒されます。
万人受けする国ではありませんが、
インドに一度恋すると、虜(とりこ)になるそうです。
中川龍士(なかがわたつし)も、そのひとり。
今年二月下旬、デリー。
中川はインド初の近代地下鉄プロジェクト、
デリーメトロの保守管理や建設工事の進行具合を
確認するために再びこの地を訪れていました。
市内を中心に東西南北を結ぶデリーメトロは、
車の渋滞や排ガスに悩む市民のための、
環境に優しい公共の交通手段。
プロジェクトには、世界中の企業が参加しました。
三菱商事も日本・韓国のメーカーと企業連合を組み、車輌を担当。
二〇〇〇年八月、中川はチームを代表して
契約をまとめる仕事についたのです。
それから九ヶ月後。
大事な契約調印式に、急遽出席することになった中川に、
駐在員の先輩が尋ねました。
「中川、署名する万年筆を持っているか?」
「え? 普通のサインペンしかありません・・・」
彼は、普段使っているサインペンで署名しようとしていたのです。
調印式当日、緊張の面持ちでサインする彼の手には、
先輩から借りた立派な万年筆が、しっかりと握られていました。
二〇〇二年十二月。デリーメトロは
予定より四ヶ月も早く、一部路線を完成させました。
開通初日には、なんと百二十万ものデリー市民がデリーメトロに殺到。
誰もが、この新しい乗り物を歓迎し、
走り去る列車に、インドの新しい風を感じたことでしょう。
もしインドを旅行する機会があれば、ぜひ、デリーメトロにも
乗ってみてください。 気づいたら、あなたもインドの
虜(とりこ)になっているかもしれません。
(完・次回にご期待ください。)



デリー市内の交通渋滞と交通公害を緩和し、効率的かつ時間に正確な大量輸送システム「デリーメトロプロジェクト」の建設工事は、日本の政府開発援助(ODA)を受けて、2000年にスタートしました。東西を結ぶ地上・高架鉄道と、南北を結ぶ地下鉄で全長約56km。三菱商事は日本と韓国のメーカーと共に車輌を納入しています。2002年12月には一部(8km)が開通し、初乗り料金は4ルピー〜7ルピー(約10〜18円)に抑えられています。2005年の全線開通に向けて着々と工事が進められています。



インドの滞在時間は実質1日。その間、数箇所で撮影を行おうという、まさにハードスケジュール。デリーメトロ車内の撮影では、乗客の視線を一手に集め、担当社員も緊張気味。車輌基地で電車の屋根に上ったり、ヘルメットを着用して地下トンネルの掘削現場に赴いたり、右へ左へ砂まみれの撮影を敢行。あっという間に予定していた時間を超過、大慌てで空港に駆けつけ、インドを後にしました。




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