
三菱商事では、市場メカニズムを使った『地球環境と経済の共生』が必要であると認識し、早くから排出権ビジネスに取り組んできました。総合商社の強みを生かし、全世界で排出削減プロジェクトを立ち上げ、ビジネスという側面から地球環境と企業を支えています。
気候変動対策が生んだ新しいビジネスモデル
1997年、京都で第3回気候変動枠組条約締約国会議、いわゆるCOP3が開催されました。COP3では、2008年から2012年の5年間(第一約束期間)、附属書I国(先進国、ロシア、ウクライナ、中・東欧諸国)の二酸化炭素(CO2)などの温室効果ガスの排出量を、約5%削減することが合意されました。これが「京都議定書」です。
京都議定書では、各国の国内努力にも関わらず、温室効果ガスの排出削減目標を達成することが困難な場合のために、京都メカニズムと呼ばれる3種類の手法が認められました。その3種類の手法とは、クリーン開発メカニズム(CDM)、共同実施(JI)排出権取引(ET)です。
地球の大気中のCO2濃度は、産業革命以前では280ppm(0.028%)程度でしたが、今は381ppm程度まで増えています。その濃度は先進国の大都市でも、人の住まない南極でも同じ。CO2は大気中で拡散するからです。逆に、たとえば発展途上国で効率の悪い発電所を改善したり、工場から排出されている温室効果ガスを回収し分解するなど、地球上のどこで排出を減らしても全体に効果が及びます。京都メカニズムはそこに注目した仕組みであり、世界全体で効率的に排出削減を進めていこうという試みなのです。
20世紀の後半から、台風やハリケーンの大型化や集中豪雨、干ばつといった気象災害が世界で頻発するようになり、地球温暖化の原因は、化石燃料の燃焼など人為起源による温室効果ガスであるとほぼ断定されています。

※附属書I国・・・先進国と市場経済移行国(ロシア、ウクライナ、中・東欧諸国)
排出権取引に関わるすべてのサービスをワンストップで
京都会議後の1998年、当時の三菱商事社長佐々木幹夫(現相談役)が、気候変動対策や二酸化炭素の削減は将来大きな動きになると考え、調査を命じたのが始まりでした。これを受け三菱商事では京都メカニズムに注目し2000年の世界銀行炭素基金(PCF)への参加を皮切りに、2001年に排出権取引ビジネスの草分けである米国ナットソースおよび短期金融仲介の第一人者である東京短資(現在の東短ホールディングス)などと共同でナットソース・ジャパンを設立するなど、早くから排出権取引に必要となるインフラ整備に取り組んできました。2004年にはアジアで初の温室効果ガス削減資金である日本温暖化ガス削減基金にも中核メンバーとして参加しています。同基金は途上国や東欧諸国で行われる温室効果ガス排出削減プロジェクトから生じる排出権を購入し、出資者間で配分することを目的に設立された基金です。
2005年1月にEUにおいて域内排出権取引制度が開始され、同年2月には京都議定書が発効したことから、京都メカニズムを活用した排出権ビジネスに世界的な注目が集まり、多くの企業が参入し始めました。しかし早くからこの分野に注目した三菱商事は、ノウハウと経験で他社に先行しています。約200ヵ所に海外拠点を持ち世界中のあらゆる産業にアクセスしていること、各国政府や世界的な企業とネットワークを築いていることなどの強みを生かし、単なる排出権の売買だけでなく、CDMやJIプロジェクトに力を入れ、調査から事業提案、プラントの設置やファイナンスといったすべてのサービスを“ワンストップ”で提供する事業を展開しています。
更に2008年10月よりは、日本政府による国内クレジット制度の立ち上げに伴い、現在7件の国内クレジット案件に着手しております。
「この仕事の中心となっているのは発展途上国における排出権の創出です。しかも中心都市から離れるにつれてビジネス機会が広がってきます。だからローカルに徹しなければなりませんし、各国のビジネス風土、環境にも精通しておく必要があります。一方で、国際交渉などの動きにも敏感でなければなりません。徹底的にローカルでかつインターナショナル。この両極端を同時にやる、いかにも三菱商事らしい仕事だと思います。しかもこのビジネスは、会社への利益貢献とともに地球環境の保全にも貢献しています。会社だけでなく、相手国や日本政府にも貢献できるという理想的なビジネスなのです」
排出権事業ユニットマネージャーの中村剛はそのように語ります。
実績を積み上げるとともに“ポスト京都”を視野に
三菱商事の排出権ビジネスは着実に進展を見せています。2006年には初めてのCDM案件が国連に登録されました。2010年1月末現在、39件のCDM・JI プロジェクトの国連登録が完了し、その削減量は年間2,260万トンとなりました。これはこれまでに国連に登録された削減量のうち約7%のシェアを占めます。現在、36件が国連登録手続き中で、先の登録済みの39件と合計すれば年間約3,000万トンのCO2排出削減量を達成できる見込みです。さらに、10~20件の案件を検討中。数においても質においても、この分野を大きくリードしています。
2009年12月にデンマーク・コペンハーゲンにて第15回気候変動枠組条約締約国会議(COP15)において京都議定書の第一約束期間終了後の2013年以降(ポスト京都)の国際的な温室効果ガス排出削減に関する枠組について、本格的な交渉が行われました。
又米国、欧州、日本並びに豪州といった先進国各国或いは域内における排出権取引制度の導入の検討も本格化する予定です。
ポスト京都においても何らかの形で排出権ビジネスの領域は益々拡大して行きます。
「気候変動対策には、数十年といった中長期の取り組みが必要になります。ポスト京都においても三菱商事が先行しているためには、常にアンテナを高く掲げ、今後もできるだけ多くの案件をいろいろな国々で手掛けていくことが大切と考えています」(中村ユニットマネージャー)
気候変動に限らず、環境への配慮をしないビジネスは成り立たなくなっています。企業の事業活動・技術開発は環境を意識した方向にシフトしており、排出権取引以外にも世界中でさまざまな新しいビジネスモデルが生まれています。同時に、それらすべてが三菱商事のビジネスに関連してきます。排出権事業ユニットが手掛ける一つひとつの案件は手間がかかる地道な仕事ですが、これを着実に仕上げていくことは環境分野における新たなビジネスの経験蓄積やモデル構築にもつながっていくのです。


