16 2015年後半、ブラジル北部で農家への農業資材販売、穀物の集荷販売・輸出を展開するAgrex do Brasilは、膨大な農業資材の在庫に頭を抱えていました。政情不安による急激な金利・インフレ率上昇から景気が低迷し、加えて大規模な干ばつが農家を直撃したことで、資材の需要が大きく減退したのです。拡大する世界の穀物需要を背景として、欠品防止を優先して年初に一括して大量購入するという従来の業界習慣が裏目に出て、在庫が膨れ上がっていたのでした。 「これ以上在庫は増やせない。仕入手法と在庫管理を変革しよう」。同社に出向していた川俣満郎は、年初に仕入商品の一括購入という業界慣習からの脱却を決意。必要分を必要な時に随時仕入れる手法を提案します。しかし、「現場と腹を割って話そう」と意気込む川俣を待っていたのは、社員の猛反発でした。「日本とは違う。この業界の商習慣が分かっていない」「サプライヤーが受け入れるわけがない」。社員たちの心には、慣れ親しんだやり方を変えるという新たな挑戦に抵抗があったのです。 しかし、「組織全員が同じ方向を向いて進めるようにかじ取りするのが経営の仕事」。その信念の下、売上実績や業績予想などに基づき、考え方を変えなければならないことを膝詰めで議論しました。川俣の熱意が伝わり、徐々に理解が広がっ三菱商事グループの企業価値向上のため、事業の最前線で活躍する経営者の奮闘を紹介します。Agrex do Brasil 代表取締役社長界慣習からの脱却に挑戦川俣満郎(写真中央)経営は、全員が同じ方向を向くためのかじ取り役
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