Connecting to the future:2050年に向け、ブレークスルーをもたらす スタートアップへの投資が鍵に

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Climate Tech投資がつくる未来 vol.1 2050年に向け、ブレークスルーをもたらす
スタートアップへの投資が鍵に

温室効果ガスの排出量削減や地球温暖化対策を目的とする技術やビジネス、「Climate Tech(気候テック)」。近年、このClimate Techへの投資が急拡大しており、今後もさらなる成長が期待されている。CO2(二酸化炭素)排出量を実質ゼロとする目標「2050年ネットゼロ」の達成期限まで残り30年を切ったいま、Climate Techに注目が集まる背景とは。投資の傾向と課題とは。さらに2023年春、三菱商事が出資に参画した新技術の一つ、「フュージョンエネルギー」分野の可能性に迫る。

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急増する世界のEX関連投資 初の1兆ドル超

現在、140以上の国・地域が表明している「2050年ネットゼロ」。その達成に向けて、再生可能エネルギー(再エネ)やエネルギー貯蔵、輸送の電化、水素の製造・貯蔵・運搬、カーボンリサイクルなど、様々なEX(エネルギー・トランスフォーメーション)領域への投資が急増している。2022年の世界のエネルギー転換投資額は、1兆1,100億ドルと前年から31%増加し、過去最高額を記録した(ブルームバーグNEF調べ、以下同)。

出所:ブルームバーグNEF, Energy Transition Investment Trends 2023から作成

分野別に見ると、2022年は、風力や太陽光、バイオ燃料などの「再エネ」が4,950億ドル (前年比17%増) で最も多い。また、電気自動車(EV)の普及を背景に、「電化輸送」分野は急速に成長しており、投資額は4,660億ドル (前年比54%増) に達している。

そのほか、「電化による熱利用」の分野は640億ドル、「エネルギー貯蔵」は157億ドル、「CO2の回収・貯留」は64億ドルに達するなど、それぞれ大幅に増加した。また、「水素」関連の分野は、現時点の投資規模は11 億ドルと最小だったものの、前年比300%増と、あらゆる分野の中で最も急速な拡大を見せている。

2040年代に必要なのは、約6倍の投資規模

一見すると、順調に拡大しているように見えるEX関連投資。しかし、ネットゼロの実現は長期的な話であり、道半ばであるのが実情だ。ブルームバーグNEFの試算によると、2050年ネットゼロを実現するためには、2023年〜2030年の間に年間平均4兆5,500億ドルの投資実行が必要であるとのこと。これは、過去最高額だった2022年の投資額の3倍以上にあたる。さらに、2030年代には年間6兆8,800億ドル、2040年代には年間7兆8,700億ドルの投資実行が必要であるとの見方を示している。年間7兆8,700億ドルといえば、2022年の実に約6倍の規模に上る。

2050年ネットゼロを表明した国・地域は140を超え、気候変動対策での協力といった歩み寄りも見られる。ただし、掲げた目標を実際にクリアしていくためには、世界中で莫大(ばくだい)な投資が必要であることがわかる。

出所:ブルームバーグNEF, Energy Transition Investment Trends 2023から作成

技術的ブレークスルーの期待高まるスタートアップ

国際エネルギー機関(IEA)が2021年に発表した『Net Zero by 2050』は、ネットゼロ実現への道のりの険しさをあらためて浮き彫りにした。IEAの分析によれば、「2050 年にネットゼロを達成するために必要な排出削減量のほぼ半分は、『商業的にまだ利用可能になっていない技術』に依存している」とのこと。つまり、既存の技術を活用するだけではなく、新たな研究開発とそのスケールアップ、商業化を実現していかなければ、ネットゼロは実現できないということだ。

いまだ実証実験や試作段階にある画期的な技術を市場に投入し、気候変動対策に「技術的ブレークスルー」をもたらす──。その役割を期待されているのが、Climate Techのスタートアップ企業だ。

米国の調査会社PitchBookによると、実際、ベンチャーキャピタルによるClimate Tech企業への投資は増加しており、2021 年の取引額は484億ドル、取引件数は2074件に達した。この取引額は2012年の約35倍、2017年の約6倍にあたる。また、PwCコンサルティングの調べでは、近年のClimate Tech投資の割合は特に高水準で推移しており、「2021年から2022年にかけては、ベンチャーキャピタル投資額全体の約4分の1をClimate Tech投資が占めていた」としている。

さらに、世界最大級の資産運用会社ブラックロックのラリー・フィンク氏は、「これからのユニコーン*1000社は、世界の脱炭素化に貢献するスタートアップ企業から生まれるだろう」と発言。世界のClimate Techのスタートアップ企業に、投資家らの熱い視線が注がれている。

*企業評価額が10億ドル以上で、設立10年以内の非上場のベンチャー企業のこと

新技術「フュージョンエネルギー」への出資参画も

エネルギー分野から産業全体を変革するEXに注力する三菱商事。再エネ事業の拡大、次世代エネルギーのサプライチェーン(供給網)構築など、2030年度までに2兆円規模のEX関連投資を実行する計画だ。

その一つとして、2023年5月、フュージョンエネルギー分野で先進的な技術を有するスタートアップ、京都フュージョニアリング株式会社への出資参画を発表した。「フュージョン(核融合)エネルギー」とは、質量の小さな原子核同士(重水素、三重水素)が融合して別の原子核(ヘリウム)に変わる際に放出されるエネルギーのこと。太陽を輝かせるエネルギーの源である核融合反応を人工的に起こすことで、エネルギーを電気や熱といった形で持続的に取り出せるようにすることを目指している。

フュージョンエネルギーは、発電の過程でCO2を排出しないこと、燃料は海水中に豊富に含まれるうえ少量の燃料から膨大なエネルギーを生み出せること、燃料の供給や電源を止めることで核融合反応を停止できる安全性を有することなどから、次世代の有望なエネルギーとして注目されている。

国内有数のClimate Tech企業として期待を集める京都フュージョニアリングと、広く深い産業接地面を有する三菱商事による新たな挑戦は始まったばかりだ。三菱商事は今後も様々な分野で、脱炭素化とエネルギーの安定供給の両立を目指して、社会や産業課題の解決に取り組んでいく。

  • 第2回は、カーボンニュートラル社会実現に向け、気候変動対策に焦点をあてた先端技術やビジネス、Climate Tech関連企業への成長投資を行う「丸の内イノベーションパートナーズ」の取り組みについてご紹介します。