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第3回
LNGカナダプロジェクト

カナダ産シェールガスを日本へ
LNGを両国の新しい懸け橋に

三菱商事グループが世界中で取り組む事業とそこで奮闘する社員を紹介するシリーズ。第3回はシェールガスの本場・カナダで、日本などアジア市場に向け液化天然ガス(LNG)の長期安定供給を目指す大規模プロジェクト「LNGカナダ」にフォーカスする。国籍が異なる5企業の合弁会社を取りまとめ、事業展開をけん引する山本仁の挑戦を取材した。

バンクーバーで行われた署名式にはトルドー首相も出席

三菱商事がカナダで展開するLNGプロジェクトのイメージ

上:バンクーバーで行われた署名式にはトルドー首相も出席
下:三菱商事がカナダで展開するLNGプロジェクトのイメージ

カナダ最大規模のLNG輸出プロジェクトが本格始動

持続可能な社会の構築に向け、エネルギー供給の多様化を求める機運が地球規模で高まる中、より二酸化炭素(CO2)排出量の少ない化石燃料として世界的に長期の需要の伸びが期待できる天然ガス。そんな中、新たな調達先として三菱商事が着目したのが、カナダのシェールガスだ。約50年に及ぶLNG事業の経験を生かして進めてきたプロジェクトが今秋本格的に始動した。

10月2日、三菱商事、シェル、マレーシア・中国・韓国の国営エネルギー企業の5社が共同出資するLNGカナダディベロプメント社(LNGカナダ)が最終投資決定を発表、カナダ西海岸ブリティッシュ・コロンビア州のキティマットに年間1400万トンの生産能力を持つLNGプラントを建設し、2020年代半ばから日本などアジアを中心に輸出開始を目指していく。

三菱商事は内陸のモントニーで採掘した天然ガスをパイプラインでキティマットに輸送、LNGに加工して日本へ輸出する。LNGカナダには山本仁が経営陣の一人として出向している。

山本は三菱商事に入社後、LNGの配船や売買契約仲介、新規顧客開発、探鉱開発と、LNGビジネスの下流から上流まで6年間かけて携わった。その後、一度会社を離れるが、「やはりLNG事業を通じて社会に貢献したい」と再入社。17年2月にLNGカナダ本社のあるカルガリーに赴任した。

LNG加工プラント完成予想図

顔を突き合わせたコミュニケーションを重視する

上:LNG加工プラント完成予想図
下:顔を突き合わせたコミュニケーションを重視する

経営陣唯一の日本人として出向 多国籍の専門人材を結ぶ

実は山本が赴任する前の年にプロジェクトは油価下落などで最終投資決定が延期された。しかしこのプロジェクトは、シェールガス革命で米国への資源輸出が減少するカナダにとっても、新たな輸出先を確保するための重要な事業。国や地元の熱意と支援、およびLNGの需要拡大がもたらす長期にわたる収益性が評価され、満を持して最終投資決定に至った。

限られた人員の中、調査、資料準備、プロジェクト株主との調整などに明け暮れる日々を送っていた山本は、投資決定の報に、「ようやくスタートラインに立った。プラント建設が始まるこれからが勝負。スケジュール、予算通りに生産・輸出が始まるまでは気が抜けない」とコメントしながらも笑顔を見せた。

山本のポジションは、資源開発とプラント建設に関して百戦錬磨の人材が集結する社内で、そうした人材を束ね、計画に沿って事業を推進していく役割だ。「複数の拠点に散らばる人たちをつかまえて話をするのが結構大変」と語る。機能別に世界中に分かれている拠点の間で、距離と時差を超えて迅速にコミュニケーションを取り、プロジェクトを円滑に進める必要があるからだ。同僚から「ジンはいつも走り回っている」といわれる山本は、メールやチャットを駆使しながらも、対面コミュニケーションを心がける。

「社内では“Care for People”ということを特に大切にしていて、私自身も可能な限り顔を突き合わせ、スタッフの表情の変化からも、困っていること、滞っていることがないかなどのサインを見逃さないように心がけています」

カリッツCEOも「ジョイントベンチャーではパートナー企業同士が連携し、チームとして仕事をすることがとても重要。ジンはよい関係を築きながら5社共通の目的を目指す上で欠かせない存在だ」と評価する。

カナダの新産業発展に寄与し日本のエネルギー安定供給へ貢献

10月以降、プロジェクトは一気に動き出している。プラント建設工事はすでに始まり、パイプライン敷設工事も着々と進む。1カ月で社員は倍に増えた。LNG生産インが稼働すれば、当面は年間約210万トンが日本に輸出される予定だ。

「このプロジェクトは日本のエネルギー安定供給に資するだけでなく、長期にわたって地元経済の基盤となり、カナダの国益にもかなうもの。遅滞なく実現に導かなくてはならない。会社がどんどん拡大、変化していく中でのかじ取りがますます重要だ」と山本。

高校時代までを米国で生活した山本は、日本人としてのアイデンティティーを大事にしたいと大学時代を日本で過ごし、「資源ビジネスを通じて、日本や世界に貢献したい」と三菱商事を志望した。この事業を手掛けることで「日本とカナダの懸け橋になりたい」と力を込める。

さらに「新興国ではまだまだ石炭火力発電が主流。将来的にそのエネルギーをLNGに替える手伝いができればうれしい。これから先の地球もまだまだいいところであってほしい」と夢を語る。山本の挑戦が尽きることはなさそうだ。

取材を終えて

空港から森の中の道を1時間、人口8000人の町、キティマットに着く。プロジェクトには大勢の市民が関わる。歓迎の意を込めて行われた祭りのにぎわいに期待を肌で感じた。カナダのインフラ事業では先住民の理解が不可欠で、記者会見で「子ども、ひ孫の分まで代弁して感謝する」と先住民の長が述べた言葉に山本さんは大いに力づけられたという。カナダ産のLNGが海を越え、我々のライフラインとなる日に思いをはせた。

2018年12月12日 日本経済新聞掲載広告
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