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第7回
DX事業

DXで業界に革新を
社会・環境課題の解決へ

注:新型コロナウイルス感染対策のため、密を避け、換気などに十分配慮して撮影しています。

三菱商事が世界中で展開する事業や新たな領域への挑戦を紹介するシリーズ。第7回は、三菱商事が推進するデジタル戦略の中核を担うテクノロジーカンパニーとして2019年に設立されたMCデジタル(東京・千代田)を取り上げる。自社・グループ内の業務改革にとどまらず、サプライチェーン全体にオープンなDX(デジタルトランスフォーメーション)基盤を構築し業界全体の発展を目指す取り組みに密着した。

大胆な変革を目指す平栗社長

大胆な変革を目指す平栗社長

IT人材そろい切磋琢磨
デジタルでビジネス変える

世界を舞台に活動する三菱商事。関わる業界は多岐にわたり、川上から川下までサプライチェーンのすべてに深く入り込む。MCデジタルは、DXを通じて各産業全体の変革を目指す三菱商事のデジタル戦略を技術面で支える中核部隊だ。三菱商事の平栗拓也デジタル戦略部長が社長を兼務。三菱商事の各部門と密に連携を取りながら、一体化した運営を行う。DX化を外部委託する企業が多い中、三菱商事では徹底して内製化にこだわった。

東京・神田のオフィスを訪れると、IT企業らしく、カジュアルスタイルの社員がパソコンに向かっていた。ホワイトボード前にはエンジニアたちが集まり、熱いディスカッションも始まった。

総勢16人からなるメンバーの平均年齢は20歳代後半。同社設立を機に参加した若き技術者集団だ。人材マッチングアプリの開発などで多くの実績を残してきた最高技術責任者(CTO)の久保長礼を筆頭に、情報オリンピックなどのコンテストで数々の受賞歴を持つデータサイエンティストなど、米国の大手IT企業にスカウトされてもおかしくない逸材がそろう。

「産業界のプロの方々との対話を通じて新しい視点やアイデアを獲得できる」。MC デジタルでの働きがいを久保長はこう表現する。「各領域で高い専門性を持つ人材が集まり切磋琢磨(せっさたくま)し合う。三菱商事が持つ既存事業に人工知能(AI)を取り入れることで自動化・最適化できる領域があるので、MC デジタルが持つ技術を組み合わせることで価値を一緒に創っていける可能性がある」

DXの目的はビジネスモデルをデジタルの力で変えること。「そのために、優れたエンジニアを内製化することによってIT ドリブンでビジネスモデルを変えたり、思い切った変革を促していきたい」。トップの平栗もエンジニアたちが力をフルに発揮できる環境づくりに労を惜しまない。

需給バランスを最適化
フードロスをAIで解決

三菱商事の思い描くDXは、一企業内完結型のそれではない。「産業全体を発展させるデジタルプラットフォーム」だ。

三菱商事グループの連結事業会社は約1700社。取引先などを含めるとステークホルダーは膨大な数に及ぶ。それぞれの業界全体を巻き込んでいかにデジタル化を推進するか。その成否が企業・業界の未来を大きく左右する。そのためには業界を横断する共通の基盤が必要であり、MCデジタルが生み出すソフトなどの資産は他社にも公開していくという。「我々は黒子としてデジタルプラットフォームを提供しながら産業全体の発展をお手伝いしていきたい」と平栗は語る。

例えば、その先駆けとなるプロジェクトが食品流通DX。三菱商事が国内で長年取り組んできた食品流通ビジネスの効率化をDXによって実現しようという試みだ。

食品業界ではこれまでメーカー、卸、小売りがそれぞれの判断で販売数や発注量を決めていたため、各社の予測のズレが積み重なって多くの無駄を生んでいた。三菱商事は、MCデジタルの有する最先端のAI技術を活用し、サプライチェーンに関わる受発注や在庫等のデータを総合的に解析することで、食品業界における流通全体の最適化を目指す。久保長は「需要予測に合わせて発注量を計算するアルゴリズムを取り入れることで精度が上がった」と成果を語る。

DX構築によって発注の精度を上げて様々な無駄を解消できれば、食品業界が抱えるフードロスや配送に伴うCO2の削減など社会・環境問題の解決にもつながる。それは三菱商事が半世紀以上展開してきた食品流通業界への恩返しと同時に、「社会価値」「経済価値」「環境価値」の3価値同時実現を目指す同社の理念にも合致する。

DX事業の挑戦は食品流通業界だけにとどまらない。「1つのサプライチェーンで成果を上げたプラットフォームは別の産業にも横展開できる」(平栗)とし、他の分野でも新たなビジネスモデルの開発が始まっている。

MCデジタルの技術力と三菱商事の業界知見。両社の強みを生かした社会問題の解決への挑戦こそこの会社に与えられた使命と考える平栗。「自分たちがつくった仕組みが社会に実装されてインパクトをもたらす。社会的責任の大きな仕事であり、絶対に成功させなければならない」と決意を語った。

2021年3月9日 日本経済新聞掲載広告
企画・制作=日本経済新聞社イベント・企画ユニット