CFOメッセージ


中経2024による資本コストを意識した経営の成果
当社は中期経営戦略2024(以下、中経2024)の定量目標として「ROE二桁水準」を安定維持することを掲げ、株式市場から求められる資本コストを上回る安定的な成長を目指しています。その達成に向けて、「既存事業の入れ替え・利回り改善の促進」「規律ある成長投資・リスク管理」「市場期待を意識した株主還元」「財務健全性の維持」の4点を重視しており、特に既存事業や成長投資に関しては、中経2024で導入した経営管理制度を通じて、各営業グループが自律的に資本効率を意識できるような枠組みを整えています。その結果、ROEは二桁水準を安定的に維持することができており、今後さらなる向上を目指していきます。
循環型成長モデルに基づき新規事業の創出と既存事業の入れ替え・利回り向上を促進
当社は企業価値向上に向けて、循環型成長モデル への取り組みを加速しています。収益貢献のある事業においても、積極的にポートフォリオの入れ替えを行い、経営資源の循環を促進するとともに、次の成長へ向けた新規事業の創出に取り組んでいます。同モデルを推し進める施策の一つとして、ROICや成長率を基準として、入れ替え候補とする事業をリスト化し、各営業グループに目標を割り当て、自律的な入れ替え・利回り改善を促すことで、キャピタルゲインの獲得や低利回りの事業の削減を通じた資本効率向上を図っています。リストアップされた事業に対しては、専任チームが毎月進捗の確認を行いながら、循環型成長レビュー(トップマネジメントとの対話)を通じた案件のモニタリングを行うことで、打ち手の確実な実行につなげています。
例えば、定量的な観点から循環型成長モデルのリストアップ対象となっていた当社投資先の1社では、当社からの出向者の派遣などを通じて経営基盤を強化するとともに、海外生産拠点の戦略立案に当たり当社の知見を活用、さらには商品の販売強化に当たって当社が強みを持つ地域や領域との連携を検討するなど、一丸となって企業価値最大化に取り組みました。その結果、もともと2025年度の達成を見込んでいた連結営業利益目標を2023年度に前倒しで達成することができています。
これは全体の中での一例ですが、このようにリストアップされた事業の利回り改善や入れ替えに集中的に取り組むことにより、2023年度における対象事業の収益改善の定量効果は、2021年度比で600億円となっており、2024年度には同1,000億円を見込んでいます。

また、各営業グループの資本効率に対する意識を一層高めるためのモニタリングツールとして導入している「グループROE」も、着実に浸透しており、営業グループとしての自律的な取り組みにつながっています。
さらに、上場政策保有株式の削減についても、資本効率の向上の観点で重要な取り組みであると認識しています。当社の上場政策保有株式に関しては、取締役会において毎年、経済合理性を含めた保有意義の検証を行っており、保有意義が希薄化した銘柄に関しては積極的な削減を進めています。2023年度にはみなし保有株式196億円を含め660億円(時価ベースの売却額)を売却しており、前年度比で約1割を削減しています。


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規律ある成長投資・リスク管理による事業ポートフォリオ強靭化と資本コストの抑制
新規投資に際しては、個別案件ごとに業種・国等の要素に応じた定量基準を設定し、定量面・定性面を総合的に評価した上で、案件の厳選を行っています。また、事業ポートフォリオ全体の観点からは、「本部」「業種」「国」「通貨」等の切り口で概況をモニタリングし、集中リスクや業績の下方耐性を全社経営が定期的に確認する枠組みを導入しています。
こうしたリスク管理による事業ポートフォリオの強靭化に加え、当社が持続的な価値創出に向けて取り組んでいるコーポレートガバナンスの継続的な強化および環境や社会性リスクへの対応、開示拡充を含めたステークホルダーエンゲージメントの強化を通じて、資本コストの抑制を図っています。
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市場期待を勘案し配当を一段高い水準へ
株主還元については累進配当制度をベースに、総還元性向40%以上をめどとした上で、キャッシュ・フローの動向を見極めながら機動的な追加還元を実行する方針としています。毎年の増配や自社株買いを検討する際には、株式市場の皆さまと直接対話させていただいているCSEO組織とも十分に連携しながら、市場期待に応えることも意識しています。2023年度は、1株当たり70円の配当(総額2,900億円)に加え、2024年2月に公表した機動的な追加還元5,000億円を含む、総額6,000億円の自己株式取得を実行しました。2024年度は、稼ぐ力の伸長と、キャッシュ・フローの予見性が高まったことを受け、配当と自社株買いのバランスを見直した結果、累進配当制度の継続を前提に1株当たり配当100円へと、一段高い水準への増配を公表しました。配当総額の約4,000億円は、通期見通しに対する総還元性向40%を全て配当で賄う金額規模であり、当面の事業ステージが「基盤固め」「助走」「仕込み」の期間 となることを踏まえると、相応に高い配当水準であると認識していますが、将来にわたってこの水準を維持しても、成長投資の推進と財務健全性の維持を両立できるものと考え、決定したものです。
2024年度は中経2024の最終年度となりますが、引き続き規律を持って積極的に成長投資の機会を追求しながら、機動的な追加還元についても、キャッシュ・インフローの水準や投資パイプラインの状況を踏まえ、検討していく方針です。
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還元後フリーキャッシュ・フロー黒字により高い財務健全性を維持
当社は、従前より格付シングルA格上位を目標に掲げており、2024年6月時点の格付はS&P:A(安定的)、Moody’s:A2(安定的)、R&I:AA(安定的)と、高い評価を得ています。中経2024では、財務健全性の維持向上を図るべく、3カ年累計での還元後フリーキャッシュ・フローをプラスに維持する方針としました。その後、業績の好調や循環型成長モデルのさらなる進展を受け、資本配分の原資となる3カ年累計のキャッシュ・インフローは、中経公表当時の見通し4.5兆円から5.5兆円に増加しており、財務健全性は想定を上回る水準で推移しています。結果として、将来的には現在の格付を維持しながら必要に応じて財務レバレッジを活用する余地も広がりつつあると認識しており、当社の強みである財務余力の大きさを活かして、引き続き成長投資の拡大と株主還元の強化を両立させていきたいと考えています。


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