The Next ~未来を創る人たち~
ゲストを迎えてさまざまなことを語り合う新企画。
今回は、俳優として活躍する一方で映画祭主宰なども務める別所哲也さんを招いた。

「いつも“これで十分”とは思えない」
池崎別所さんは若い頃にハリウッドデビューされていますね。それは大変なチャレンジだったのではないでしょうか。
別所それ以前に、まず俳優になることがすごくプレッシャーでした。家は祖父も父も叔父もみな銀行員。僕が俳優になるって言った途端、「別所家にそんな人間は一人もいない」という感じでしたから(笑)。
池崎それでも迷いはなかったんですね。
別所はい。でも本当の試練はオーディションに受かった後。現地へ行ったら英語がまるでわからない。生活に関すること、一つひとつを覚えるところから始まりました。
池崎僕も世界で戦えるプレイヤーになるためには海外での武者修行が必要だと思い、続けています。初めて米国のチームでの修行が決まった時は不安が9・8割くらい。でも、目標を達成するためにはそこがいい環境だと思ったので飛び込んだんです。チャンスがあるのに諦めるのはもったいない。今年の10月からの渡米も、今回はもっと厳しい環境に自分を置こうと決めました。
別所自分の目標に向かって切り開いていくということがすごいですよね。
池崎楽な道を選ぶよりも茨の道を選んだほうが得るものはあるかな、と(笑)。
別所僕はハリウッドデビューしてから10年くらい経って、映画祭を立ち上げました。ジョージ・ルーカス監督にダメもとで協力依頼のメールを送り、受けてもらえたことで日本発の国際短編映画祭が誕生するんですが、始めはいろんな人に「映画祭なんて俳優がやってもできっこないよ」「俳優として活躍しているんだしそんなことをしなくても」と言われました。周りは僕が“すでに得ているもの”にダメージを与えないよう親切に忠告してくれます。でもそれでは成長が止まってしまう気がする。僕はいつも「これで十分」とは思いません。自分が面白いと思ったことや興味のあることを好きなだけやりたい。ごく当たり前の人間の好奇心というか、興味の赴くままにね。
池崎そう、人間には好奇心や興味が絶対にあると思うんです。
別所自分の中にある興味や好奇心の炎が消えてしまったら、生きている意味がない。僕は生きている間はずっと「オン」だと思っているんです。仕事をしていない時は子どもと思い切り遊ぶし、寝ている時も身体を思い切り休ませるためのオンですね。
池崎それ、いただこうと思います。「僕のオフは死んだ時だ」って(笑)。
別所そう! 心臓が止まってあちらの世界へ行くまでは僕らはオンなんですよ。
「時々自分を俯瞰することも大切」
池崎別所さんは俳優にラジオナビゲーター、国際短編映画祭の主宰……と多くの仕事をされていますが、それをこなす行動力がすごいですよね。
別所よく別所2号、3号がいるのかって言われますが(笑)、いろんな人を巻き込んでいると思います。気がつけば助けてくれる人がいる。国際短編映画祭がここまで来られたのも仲間ができ、一緒にやってくれたから。それと、僕は自分がやりたいと思ったことだけでなく、人から求められたことにチャレンジするのも大事だと思っているんです。
池崎どういうことですか?
別所僕の存在を見つけてもらい磨いてもらわないと1人では何もできないなって。「一人芝居」も演出家や照明さんをはじめ、たくさんのスタッフがいて、何よりお客様が来てくださってできる。僕がこんなにいろんなことができるのは仲間を作っているからです。スポーツも同じでしょう?

池崎はい。僕が攻撃できるのは、やはりチームメイトが助けてくれるからですね。
別所いろんな分野で活動すると、まったく違う世界の人との出会いがあります。その出会いが自分を変えたり刺激を与えたり違うチャレンジをしたいと思わせたり。もともと俳優をやりたいと思った根源にある、表現することで人と感動を分かち合いたいということに繋がっていく。
池崎いい仲間を得るためにしていることは?
別所どんどんコミュニケーションを取ります。好きな言葉に「金持ちになるより人持ちになろう」があるんです。生活するのにある程度お金は必要ですが、お金がたくさんあっても1人で食事をするのは寂しいですよね。でも、例えば365人友達がいて毎日おごってもらえればお金がなくても生きていける。そんな感じかな(笑)。
池崎別所さんの今の夢や目標は何ですか。
別所僕は「こうやって生きている人がいるんだ」と感じる人物や物語にすごく興味があります。違う生き方やチャレンジをしている人に出会うとすごく刺激を受けるし、自分の悩みがちっぽけなこともわかります。それと、僕も池崎さんと同じで海外との繋がりを忘れたくない。自分のいる小さな世界だけで煩わしいことにかかわっていると、それだけで人生が終わってしまうような気がして。だから、時々自分を俯瞰することも大切だと思うんです。あとは年齢を重ねたからか、次の世代や一緒に映画をやっている若い人たちをサポートしたい。そこに夢がシフトした気がしますね。
別所 哲也 / べっしょ てつや
1990年、日米合作映画「クライシス2050」でハリウッドデビュー。
99年から日本発の国際短編映画祭「ショートショート フィルムフェスティバル&アジア」を主宰。
東京都のパラスポーツプロジェクト「BEYOND AWARD 2017」では旗ふり役を務める。



池崎 大輔 / いけざき だいすけ
1978年、北海道函館市生まれ。
車いすバスケットボールから2008年、車いすラグビー(ウィルチェアーラグビー)に転向。10年4月、ウィルチェアーラグビー日本代表に選出。
現在、三菱商事所属。

AERA 2017年12月4日・11日発売号 掲載
企画:朝日新聞社メディアビジネス局 制作:朝日新聞出版カスタム出版部