三菱商事

The Next ~未来を創る人たち~

The Next ~未来を創る人たち~ 当社所属池崎選手による 雑誌「AERA」での対談企画「The Next ~未来を創る人たち~」 The Next ~未来を創る人たち~ 当社所属池崎選手による 雑誌「AERA」での対談企画「The Next ~未来を創る人たち~」

ウィルチェアー(車いす)ラグビーの日本代表選手である池崎大輔が
ゲストを迎えてさまざまなことを語り合う本企画。
今回は、西村由紀江さんがピアノを演奏してくれるところから始まった。
聞き手:ウィルチェアーラグビー日本代表 池崎大輔さん ゲスト:作曲家/ピアニスト 西村由紀江さん

「多くの人にピアノの力を届けたい」

ゲスト:作曲家/ピアニスト 西村由紀江

池崎(西村さんのピアノ演奏を聴いて)すごい……! 僕は楽器もできないし、音楽には疎いんです。でも、ピアノの音が鳴った瞬間に込み上げてくるものがありました。いま弾いてくださった曲が、東日本大震災の時に作られた曲ですか?

西村はい、「微笑みの鐘」という曲です。

池崎東日本大震災から丸8年になりますが、西村さんはいまも被災地でピアノを失ってしまった人に「ピアノとピアノの音」を届ける「スマイルピアノ500」という活動をされてるんですよね。

西村震災直後にテレビのニュースを観ていたら、「いま何が欲しいですか」と尋ねられた陸前高田市の女の子が「ピアノが欲しい」と答えていた。それにものすごい衝撃を受けたんです。この子にピアノを届けたいと思ったんですがどうしていいのかわかりませんでした。そんな時、すでに被災地で活動をしていた調律師の名取孝浩さんに出会ったんです。「僕がメンテナンスや調律をして、西村さんが笑顔でピアノを弾くというプレゼントはできないかな」と声を掛けて頂き、一緒に活動を始めました。

池崎実際に被災地に行かれた感想は?

西村ピアノを待っている方に届けられることは本当に嬉しいことですし、みなさんの笑顔に私の方が元気をもらっています。お届けした時は毎回「弾き初め」をさせて頂くんですが、ある時、「私はいいわ」と部屋を出ようとするお母さんをお引き留めし、お子さんと一緒に聴いてもらいました。すると、1音目を弾いた時にお母さんの目から涙がスーッと流れたんです。演奏が終わったら、「なぜかわからないけど、涙が出たのよね」って。多分、子どもの前ではいつも笑顔でいようと気を張っていらっしゃったんでしょう。それがピアノの音色によってふっと心が解けたのかなと。ピアノが好きだからとか、思い出の曲だからとか、そういうこととはきっと関係ないんですね。ピアノの音色にそういう力があるんだなと私自身が気付き、すごくハッとさせられました。

池崎まさに先程の僕と同じですね。僕も西村さんの演奏を聴いて心が揺さぶられました。ピアノの響きがダイレクトに身体や脳に伝わってきた気がして……。これが生で聴く音楽の力なのか、と感じましたから。

西村スポーツにも同じ力がありますよね。私はスポーツ観戦が好きで、先日もウィルチェアーラグビーの試合を拝見したのですがすごくパワーをもらいました。

池崎スポーツは音楽とは程遠いと思っていましたがそんな共通点があったとは! すごく嬉しいです。

「コンプレックスも力に変えられる」

聞き手:ウィルチェアーラグビー日本代表 池崎大輔

池崎西村さんとピアノの出会いは?

西村母がピアノの先生をしていたので自然に自分も弾いていたという感じです。3歳の頃でした。

池崎そこからずっとピアノを好きで続けられたのですか?

西村私がピアノを続けられたのは、実は「人見知り」というコンプレックスがあったから。幼稚園で友達に声を掛けられてもドキドキしてうまく答えられなかったんです。そのもどかしい気持ちを抱えてピアノを弾いたら「大変だったね」ってピアノが慰めてくれているみたいに聴こえた。今日は友達とちょっと話せた、嬉しいと思ってドミソを弾くとなんだか明るい音色に聴こえたり。同じドミソでも悲しい音色に感じることもあるんですね。毎日、そうやって自分の気持ちを日記のように音にしていました。

池崎その頃から作曲していたということですか?

西村そうですね。それもまたコンプレックスに関わるのですが、ピアノを習い始めた頃に先生から「あなたは手が小さいからピアニストは無理」と言われたんですね。だから、クラシックのピアニストにはなれないと思った。でも、だからこそ、自分の手に合わせて自分が弾ける曲を作っていく。そういうところに楽しさを見い出せたんだと思います。

池崎ハンデにくじけず、自分の強みを伸ばせたということですね。

西村いまも小さな手に変わりはありませんが、いつだって自分にできることがあるしベストを尽くそうと思っています。旅先でも指のトレーニングは毎日欠かしませんし、体幹を鍛えたりもしているんですよ。

池崎そんな話を聞いたら、夢を諦めそうになっている子ども達も励まされるんじゃないかな。

西村そうだと嬉しいです。あと、子どもたちのためにできる取り組みとしては、ピアノを始めたばかりの人でも楽しく弾ける曲をたくさん作ろうとしています。せっかく始めたのに練習曲がつまらなくて辞めてしまってはもったいないので(笑)。

池崎ピアノを続ける人が増えたらいいですよね。

西村私はコンサートだけでなく、幼稚園や病院など色々な場所で演奏活動をしていますが、聴いてくださる方や場所によって、同じ曲でもまた違った響きになるから面白いんです。私はこれまでピアノにたくさん力をもらってきたので、音楽を通じて誰かのためになれればと思っています。

池崎僕もスポーツを通じて誰かの励みになったり、エールを送ることができればと思っているので、思いは西村さんと同じです。お互いのジャンルでますます頑張っていきましょう。

西村 由紀江 / にしむら ゆきえ

作曲家/ピアニスト。幼少より音楽の才能を認められ海外への演奏旅行などを行う。桐朋学園大学入学と同時にデビュー。ドラマ・映画・CMの音楽を多数担当するほか、TV・ラジオの出演やエッセイの執筆も行う。

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池崎 大輔 / いけざき だいすけ

1978年、北海道生まれ。

車いすバスケットボールから2008年、ウィルチェアーラグビーに転向。10年4月、日本代表に選出。16年、リオパラリンピック銅メダル。18年、世界選手権優勝。

三菱商事所属。

AERA 2019年3月11日・18日発売号 掲載

企画:朝日新聞社メディアビジネス局 制作:朝日新聞出版カスタム出版部

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