三菱商事

Connecting to the future:業種を超えた連携と、蓄積された知見で次世代エネルギーの社会実装に挑む

Connecting to the future 思いをつなぎ、未来をつくる Connecting to the future 思いをつなぎ、未来をつくる

次世代エネルギーのいまと未来 vol.2 業種を超えた連携と、蓄積された知見で
次世代エネルギーの社会実装に挑む

カーボンニュートラル社会の実現に向けた動きをより加速させるため、この春、三菱商事は「次世代エネルギー部門」を新設した。将来を見据えたエネルギーシステムの変革にどう挑むのか。三菱商事の最新の取り組みに迫るシリーズの第2回は、異なる実用化ステージにあるSAF(持続可能な航空燃料)、水素、カーボンクレジット、アンモニア、石油の各エネルギー事業を担う5人の社員が登場。具体的な取り組みや、新部門の創設で生まれた変化、今後への期待や意気込みをGLOBE+編集長の関根和弘が聞いた。

第1回「次世代エネルギーの現状・課題」はこちら>>

第3回「次世代エネルギー部門長のインタビュー」はこちら>>

[ 座談会参加者 ]
一ノ瀬 有希 氏(次世代エネルギー部門 バイオ・合成燃料事業部)
林 融 氏(次世代エネルギー部門 水素インフラ開発部)
西田 一喜 氏(次世代エネルギー部門 カーボンマネジメント室)
森 嘉史 氏(次世代エネルギー部門 次世代発電燃料事業部)
安藤 悠二 氏(次世代エネルギー部門 リファイナリー事業部)
(以下、敬称略)
[ 聞き手 ]
関根 和弘(GLOBE+編集長)

航空業界の期待集める「SAF」 長期安定的な原料調達を

三菱商事・次世代エネルギー部門バイオ・合成燃料事業部の一ノ瀬有希氏

—— 航空業界の低・脱炭素化のカギを握るとされているのが、「SAF(サフ:持続可能な航空燃料)」ですね。

一ノ瀬 国連下部組織の国際民間航空機関(ICAO)は、2021年から「国際民間航空のためのカーボンオフセットおよび削減スキーム(CORSIA)」という枠組みを導入しています。CORSIAでは2027年から、2019年排出量の85%を超えるCO2に対するオフセット(相殺)が義務化されます。それを受けて各国がSAF導入に向けて動いており、日本も2030年までに航空燃料の10%をSAFに置き換える目標を掲げています。 ただし、現時点の世界のSAF供給量は、ジェット燃料の0.1%にすら満たない状況です。今後、SAFの大規模生産に向けた取り組みを加速させる必要があります。

—— 航空燃料の10%をSAFに置き換えるとは、チャレンジングな目標ですね。どう実現させますか。

一ノ瀬 SAFにはいくつかの製造方法があるのですが、現時点で商業化しているのが、廃食油や植物油、動物性などの油脂を、水素化精製するHEFAという技術です。 HEFA技術でSAFを大量生産するには、良質な油脂原料を調達する必要があります。世界的な需要増で価格は高騰していますが、三菱商事では食品産業グループやコンシューマー産業グループと連携しながら原料調達を検討中。さらに、長期安定的な原料供給のために、油脂分を多く含む実のなる樹木などの非可食原料の開発にも着手しています。非可食、つまり食べられない植物を育てることは、SAFの原料確保とともに、CO2吸収という面でも貢献できます。 2022年4月には、ENEOSとともに、SAFを中心とした次世代燃料を共同生産する検討に入ったことを発表しました。三菱商事が持つ国内外の原料調達やマーケティングの知見と、ENEOSが持つ製造技術や販売網を活用し、早期のサプライチェーン(供給網)構築を目指しています。2027年のCORSIAスキーム義務化までにSAFを社会実装させることを目標に、取り組みを進めています。 さらに今後は、HEFA以外の製造方法についても商業化を目指し、中長期のSAF需要に応えていければと思っています。

画期的な貯蔵・輸送技術で、「水素」のサプライチェーン構築へ

三菱商事・次世代エネルギー部門水素インフラ開発部の林融氏

—— 次世代エネルギーの中でも水素への注目度は高いですね。ただし、輸送の面では課題も多いと聞きました。

需要家や水素製造事業者との会話を通じて水素の輸出入に対するニーズの高まりを感じる一方で、水素を輸送する方法は課題となっています。水素は気体の状態では輸送が難しく、液化など様々な方法が検討されていますが、我々がいま取り組んでいるのは液体有機水素キャリア(LOHC)を活用した方法です。 具体的には、まず水素とトルエンを結びつけてMCH(メチルシクロヘキサン)に転換し、MCHを海上輸送したうえで、今度はMCHを水素とトルエンに分離し、水素を需要家に届けます。トルエンは水素貯蔵・輸送の媒体として繰り返し利用できます。なお、MCHは修正液の溶剤などにも使用されていて、常温・常圧で液体状態の扱いやすい物質です。トルエンもMCHも既に流通している物質であることから、既存インフラを活用できる点は大きなメリットです。

—— シンガポールや欧州でも、水素サプライチェーン事業を進めているそうですね。

シンガポールでは、MCHを活用して水素を貯蔵・輸送するSPERA水素TMシステムを開発した千代田化工やローカルパートナーとともに、水素サプライチェーン構築に向けた具体的な検討を進めており、シンガポール政府とも事業実施に向けた協議を継続しています。2020年頃から検討を重ねてきた成果がでており、最近では事業実現に向けより詳細な調査を進めています。 欧州では昨年、「2030年までに年間の水素製造1000万トン、水素輸入1000万トン」という目標を掲げるなど、水素利用の普及に向けた動きが活発化しています。三菱商事は、オランダのロッテルダム港湾公社や千代田化工などとともに実施した共同調査の結果も踏まえながら、需要家と水素製造事業者を結びつける具体的な検討を進めています。気候変動対策の先進的な市場である欧州での事業実現を通じて、その他の地域へ事業を拡大していくことも視野に入れています。

拡大する「カーボンクレジット」市場 低・脱炭素化のコスト減にも

三菱商事・次世代エネルギー部門カーボンマネジメント室の西田一喜氏

—— 近年、カーボンクレジット市場が拡大しています。まずは、この仕組みがなぜ必要なのか解説をお願いします。

西田 「カーボンクレジット」とは、温室効果ガスの排出削減効果を取引できる形にしたものです。気候変動対策は待ったなしの状況ですが、CO2削減効果が期待されるSAFや水素、アンモニアなどの次世代エネルギーの本格的な実装にはまだ時間がかかる。そこで、省エネや再エネ導入に加えて、いますぐ取り組めるアクションとして、カーボンクレジットの活用が進んでいるのです。 また低・脱炭素化は、比較的進めやすい業界もあれば、技術やコストの面から難航している業界もあります。そうした企業間で削減価値をやり取りすることは、低・脱炭素化の社会コストを最小化することにもつながります。 とはいえ、カーボンクレジット市場はまだまだ黎明期。カーボンクレジットの品質を担保するための国際的な議論や、企業の適切な使い方を促すための制度設計などは、いま進めているところです。

—— カーボンクレジットは、革新的な低・脱炭素技術の普及にも役立てられているのだとか。

西田 日本をはじめ、各国が温室効果ガスの排出量を2050年までに差し引きでゼロにする目標「2050年ネットゼロ」を達成するためには、再エネや次世代エネルギーの導入と同時に、削減できなかったCO2を回収し、地中や海域、コンクリート製品などに永続的に貯蔵する二酸化炭素除去(CDR)の技術が不可欠といわれています。ただし、CDR技術を社会に普及させるまでには、より多くの買い手と売り手(CDR事業者)が市場にアクセスしやすくなる仕組みが必要です。 そこで三菱商事はこの4月、カーボンクレジット創出を手がける世界最大手のスイスのサウスポール社とともに、NextGen CDR Facility設立を発表しました。革新的CDR技術による高品質なカーボンクレジットの買い手と売り手をつなぎ、取引の機会を創出することで、CDR産業を支援し、その普及に貢献することを目指しています。

—— カーボンマネジメント室が取り組む「クライメートジャーニーナビゲーター」についても教えてください。

西田 企業の脱炭素化に向けての長い道のり(クライメートジャーニー)に伴走して、顧客起点で様々なソリューションの提供を行うコンセプトです。低・脱炭素化に向けて何から着手すべきか悩んでいる企業は少なくありませんし、そのニーズも多様化しています。 クライメートジャーニーナビゲーターは、CO2排出量の可視化やリスク分析といった現状把握から、目標設定、削減の実行に至るまで、企業に寄り添い、最適なソリューションを提案します。多様な業界で培ってきた総合商社の知見を、多くのクライアントのもとで生かしていけたらと思っています。

アジア・欧州・米国と連携し、「アンモニア」需要に応える

三菱商事・次世代エネルギー部門次世代発電燃料事業部の森嘉史氏

—— 昨今は、様々な使用用途を持つ「アンモニア」が注目を集めていますね。

アンモニアは肥料や化学製品の原料として長年利用されてきましたが、近年、水素キャリア(水素を貯蔵したり運搬したりしやすい形に変換する技術)としての利用のほか、燃焼してもCO2を排出しないので、新たなエネルギーとしての期待が高まっています。 三菱商事では、1960年代後半からアンモニアのトレーディング事業に携わっており、2000年初めからはインドネシアの製造会社に出資するなど、製造事業にも携わっています。 アンモニアの製造・輸送に関するノウハウや知見が蓄積されている、いわばアンモニアの“手触り感”が分かるというのは、新たにエネルギー領域で事業を展開する際も大きな強みとなっています。

—— 政府の方針を見ると、今後アンモニアの需要が急増するように予想されますが、具体的にどう対応しますか。

いま、「肥料・化学原料」用途としての世界全体のアンモニア輸出入量は約2000万トンほどですが、日本政府は国内だけで2050年に3000万トンの需要が創出されると想定しています。現状のサプライチェーンではとてもカバーできませんから、エネルギースケールでの新たなサプライチェーンを構築する必要があります。 今年2月には、三菱商事、ドイツのRWE Supply&Trading GmbH、韓国のLOTTE CHEMICAL Corporationの3社が、アジア・欧州・米国地域における大規模かつ安定的なアンモニアのサプライチェーン構築に向けたアライアンスを組むことに合意しました。その一環として、米テキサス州コーパスクリスティ港で、2030年までに年間最大1000万トンのアンモニアを製造することを計画しています。

—— 日本国内でも、アンモニアの導入に向けた取り組みを進めているそうですね。

愛媛県今治市に、LPG(液化石油ガス)・石油製品・化学品を扱っている波方ターミナルという所があります。ここを将来的なクリーンエネルギー供給拠点としても活用すべく、三菱商事は、四国電力や太陽石油、大陽日酸、マツダなどとともに、アンモニア導入・利活用に向けた協議を始めています。 LPGとアンモニアは物性が非常に近いため、既存のLPGタンクや船をアンモニア用に転換・兼用することができます。さらに波方ターミナルには大型船を着桟できる桟橋があり、周辺地域には大型の需要家もいます。 まずは2030年までに、年間約100万トンのアンモニアを取り扱うハブターミナルにすることを目指して検討を行っています。 また、この協議には企業だけでなく、愛媛県や今治市などの自治体もオブザーバーとして参画しています。アンモニア導入・利活用を通して、クリーンエネルギー新産業を創出し、地域創生にも貢献できればと考えています。

安定供給と低・脱炭素化の両立へ 「石油」事業の責任果たす

三菱商事・次世代エネルギー部門リファイナリー事業部の安藤悠二氏

—— 次世代エネルギー部門の中には、「石油製品」を取り扱うリファイナリー事業部も入っているのですね。

安藤 「石油がなんで次世代エネルギーなの?」と不思議に思われる方もいるかもしれませんね。実は石油産業ではいま、製油所やコンビナートを「次世代エネルギーの拠点」へと転換する動きが進んでいます。 例えば、製油所の水素製造能力を利活用する、LPGタンクなどの既存設備をアンモニアに転用する、SAFの製造拠点に転換するなど、様々な取り組みが動き出しています。 一方で、ウクライナ情勢に伴うエネルギー価格の急騰は、エネルギーの安定供給の重要性をあらためて世界に知らしめました。製油所を維持して液体燃料の「安定供給」を果たしながら、段階的に「低・脱炭素化」を進めていくことは容易ではありません。日本および世界全体で向き合うべき課題として、社内外の皆さんと力を合わせて責任を果たしていきたいと思っています。

—— ガソリンスタンドを活用した新たな事業にも取り組まれているそうですね。

安藤 全国に約2万8000カ所あるガソリンスタンドを、次世代エネルギーやサービスの供給拠点として活用したいと考えています。例えば、全国に点在するガソリンスタンドを荷物の最終配送拠点とすれば、配送先までのラストワンマイルを短縮し、物流の効率化につながるはずです。現在、実証実験中で、2026年度からの本格事業化を目指しています。 また、燃料電池車や水素自動車をはじめ、様々な次世代エネルギーの供給拠点としての転用も検討を進めているところです。

組織を超えた連携がもたらす、新たな価値とは

—— この4月から「次世代エネルギー部門」が始動していますが、変化を実感することはありますか。

三菱商事には、「EXタスクフォース」のように、所属グループを横断したプロジェクトが以前からありました。組織を超えて有機的に人がつながる下地があったので、スムーズに始動できたと思います。 ちなみに私は最近、フロアをよく“徘徊”しているんです(笑)。ふらっと歩いていれば必ず同期や知り合いに出くわすので、その同僚や上司とも自然とコミュニケーションがとれます。 一ノ瀬 物理的な距離の近さは大きいですよね。近くの部署の人に相談もしやすいですし、ちょっと質問しただけで大変な知見が詰まった答えを返してもらえたりするので、本当にありがたいです。 色々な部署の人がいることで、違う角度から顧客のことを理解できたり、新たな提案のヒントをもらえたりすることも。すごくいい環境だなと思います。

—— 具体的に、皆さんが部署を超えて連携して取り組んだ事例があれば教えてください。

これまで話に出てきたSAFや水素、アンモニアなどはいずれも「社会実装をどう進めていくか」という共通した課題を抱えています。ですから、その制度設計や政策支援への提言は、各事業で連携を図りながら進めています。 西田 以前、自動車事業を担当していた一ノ瀬さんから相談を受けて、低・脱炭素化の具体的な取り組みを模索されていた自動車関連メーカーに、カーボンクレジットの活用方法を紹介したことがありました。今後は例えば、部門内の他部署と連携して、クライアントが次世代エネルギーの本格導入を待つ間、低・脱炭素化を強化する手段としてカーボンクレジットの活用を提案する、といったこともあり得るかもしれません。企業のニーズに合わせて多様な取り組みの提案ができるのは、私たちならではの強みだと思っています。 一ノ瀬 今後、連携しながら進めていくであろう事例は、ほかにも色々あります。例えば、SAFのバイオ原料調達の一環で、油脂分の多い実がなる樹木の開発を検討しているので、その樹木が吸収するCO2については、カーボンマネジメント室や天然ガスグループのカーボンリサイクルユニットとの連携が必要かもしれません。さらに、原料搾油後の搾りかすを肥料や飼料にするといった場合は、食品産業グループと連携して動く可能性もあります。

—— 次世代エネルギー部門の今後への期待をお聞かせください。

ひとくくりに「次世代エネルギー」といっても、実用化へ向けて歩んでいるステージはそれぞれ異なります。先行ステージで培ったノウハウをまた次の事業開発に活用できるのは、一つの部門として強みになると期待しています。 安藤 私は、次世代エネルギー部門というのは、いまの形が最終形ではないと思っているんです。いまや産業の垣根が低くなり、多様な会社が様々な次世代エネルギー事業を展開している時代です。総合商社の強みを生かして次世代エネルギーの社会実装を進めていくには、形を変えながら動く“アメーバ”のように、時代の変化に合わせて組織も変わりながら事業をやっていくことが必要なのではないでしょうか。

次世代エネルギーを担う 熱い使命感を胸に

—— カーボンニュートラル社会の実現に向けて、皆さんの意気込みをあらためてお聞かせください。

持続可能な社会を実現するというゴールを目指しながら、「クリーンエネルギーの新しい産業を創出する」という点にしっかりと注力していきたいです。それが、日本経済の持続的な発展にもつながっていくと考えています。 一ノ瀬 やはり子や孫の世代、その次の世代まで、持続可能な地球を残さなければという強い思いがあります。次世代エネルギー部門の一員として、エネルギー戦略を立案・実行し、持続可能な未来の創造に貢献していきたいです。 次世代エネルギーという新しい領域にチャレンジできること、そして、自ら汗をかきながら新しい価値を作っていく仕事ができることに、大きなやりがいを感じています。長期にわたって社会に貢献できる事業を作ることで、ビジネスとしての成果はもちろん、関わる人やその周辺の人たちを幸せにできたらと思っています。 西田 低・脱炭素化に向けた取り組みや枠組みは、ともすると欧米が先行し、数年遅れて日本が追随するといった局面が多いことに問題意識を感じています。日本の企業が一歩でも半歩でも早く低・脱炭素化のアクションを起こし、ブランド価値・企業価値をより高めていけるよう、お手伝いができればと思っています。 安藤 島国である日本は、燃料や電力を隣国で融通することが難しいという特性があります。求められているのは、欧州主導でも米国主導でもない、日本の強みや特性を生かしたエネルギーセキュリティの確保と低・脱炭素化の実現です。個社最適や業界最適ではなく、日本という国としてどうあるべきかを考えながら、今後も真摯に取り組んでいきたいと思っています。

聞き手を務めたGLOBE+編集長の関根和弘(右端)とともに
  • 第3回は、次世代エネルギーを率いる部門長のインタビューを掲載します。
    総合商社が目指すEX(エネルギートランスフォーメーション)のあり方、目指すべき未来の姿に迫ります。
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