三菱商事

Connecting to the future:カーボンニュートラル社会の実現に向けて、「次世代エネルギー部門」が始動

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次世代エネルギーのいまと未来 vol.1 カーボンニュートラル社会の実現に向けて、
「次世代エネルギー部門」が始動

ロシアのウクライナ侵攻に伴い世界のエネルギー情勢が混迷する中、エネルギー・トランスフォーメーション(EX)を推進している三菱商事が、2023年4月、「次世代エネルギー部門」を創設した。これまで複数の営業グループに所属していた人員と案件を集約し、カーボンニュートラル社会の実現に必要な新技術の発掘や社会実装、次世代エネルギーのサプライチェーン(供給網)構築を進めていく。いま、新たな部門を設立した狙いとは。そして、多様な産業と接点を持つ総合商社がEXに注力する意味とは──。

2050年のカーボンニュートラル実現に挑む三菱商事の最新の取り組みと決意に迫るシリーズの第1回は、脱炭素化の現在地とEX戦略の中心に据える次世代エネルギーの現状・課題を紹介する。

第2回「次世代エネルギー部門の社員による座談会」はこちら>>

第3回「次世代エネルギー部門長のインタビュー」はこちら>>

「2050年カーボンニュートラル」の現在地

日本を含む世界140以上の国・地域が2050年までの達成を目指している「カーボンニュートラル」。いま、日本の進捗状況はどうなっているのか。

出所:環境省・国立環境研究所「2021年度温室効果ガス排出・吸収量(確報値)概要」

環境省と国立環境研究所の発表によると、2021年度の日本の温室効果ガス排出量は11億7000万トン(CO2換算)、排出量から吸収量を差し引いた排出・吸収量は11億2200万トン。コロナ禍からの経済回復でエネルギー消費量が増加したことも影響し、政府が掲げる削減目標のペースからはやや遅れが見られる。2050年の達成期限に向けて、CO2削減はまさに「待ったなし」の状況であることがわかる。

そもそも、どうやって「実質ゼロ」を実現するのか

ここで、カーボンニュートラルの達成、つまり「温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする」ために、どのような対策が必要なのかを整理しておきたい。

日本が排出する温室効果ガスの約84%を占めているのが、エネルギーを使うことで発生するCO2だ。そのうち、発電により発生した「電力由来」のCO2が約4割、産業・運輸・家庭などで熱や燃料として利用されて発生した「非電力由来」のCO2が約6割を占める。こうしたCO2の排出量をゼロに近づけるためには、省エネやエネルギーの効率化に加えて、低・脱炭素技術の革新、社会実装が不可欠だ。

まず、電力由来のCO2については、「電源の低・脱炭素化」を進めなければならない。つまり、なるべく環境に負荷をかけない方法で電気を生み出すということ。具体的には、石油・石炭などの化石燃料を用いた発電から、再生可能エネルギー(再エネ)や水素などのクリーンエネルギーによる発電への転換などが考えられる。

非電力由来のCO2については、自動車業界がガソリンエンジン車からEV(電気自動車)やFCV(燃料電池自動車)への切り替えを急いでいることからもわかるように、従来、化石燃料で動かしていたものを「低・脱炭素なエネルギー源へ転換」することが求められている。その方法として、電化や水素化に加え、e-methane(CO2と水素から合成したメタン)や合成燃料(e-fuel)、バイオマス燃料の利用などが挙げられる。

さらに、これらの対策を講じても排出せざるを得なかったCO2については、同じ量の「CO2を吸収・回収」することで、排出量を実質的にゼロにすることを目指す。植林がその代表的な方法だが、最近では、CCUS(CO2の回収・利活用・貯留)やDAC(通常の大気からCO2を回収する)という新技術開発にも注目が集まる。

「次世代エネルギー」の現状と課題

「低・脱炭素化は、多様なアプローチを複合的に組み合わせることで進んでいく。その中でも、いま注目されている次世代エネルギーや技術について、その特徴や課題を紹介する。

SAF | 航空分野の燃料転換へ 国産SAFの商用化目指す

電化・水素化が難しくCO2削減が特に困難とされる領域の一つ、航空燃料。そんな中、国内外の航空業界の期待を集めているのが「持続可能な航空燃料(SAF:Sustainable Aviation Fuel)」だ。

SAFとは、廃食油や動植物油などの油脂、植物由来のエタノールをはじめとするアルコール類や水素などから作り出す燃料のこと。従来の石油由来のジェット燃料に混ぜて燃やすことで、CO2排出量を大幅に削減できる。さらに、既存のエンジンや機体、流通インフラなどを活用できることも利点だ。

航空業界が低・脱炭素化を加速させる背景には、国際民間航空機関(ICAO)が採択した枠組み「CORSIA(コルシア)」の存在がある。CORSIAは、「年平均2%の燃料効率改善」「2020年以降、温室効果ガスの排出を増加させない」をグローバルな削減目標としている。各国・地域でもSAFの導入目標が掲げられており、アメリカでは2050年までに100%、EU(欧州連合)は70%、日本は2030年までに10%をSAFに置き換えることを目指すとしている。

ただし、2020年時点で世界のSAF生産量は、航空燃料消費量の1%未満にとどまっている。今後、SAFの需要は世界で急拡大していくと見られ、安定確保や価格競争の面からも、国産SAFの商用化が望まれている。さらなる製造技術の確立、生産コストの引き下げ、大規模な増産のための原料調達をはじめとするサプライチェーン構築をめぐる動きがより活発化していくだろう。

水素 | 脱炭素の「切り札」 輸送技術が拡大のカギに

「脱炭素の切り札」「脱炭素のスイスアーミーナイフ」といわれ、次世代エネルギーの中心的存在として期待されているのが水素だ。

水素は、発電や燃焼時にCO2を排出しないこと以外にも、エネルギー源として優れている点が多い。例えば、多様な資源から製造できること。水を電気で分解して作る、天然ガスなどの化石燃料を改質して取り出すなどのほか、下水汚泥や廃プラスチックから製造する方法も研究されている。さらに用途が幅広いのも特徴で、燃料電池を通じて電気や熱、動力を提供できるほか、製鉄・化学品などの産業原料、発電の燃料としても活用できる。

*)e-methane(メタネーション)
主にグリーン⽔素と回収したCO2から、カーボンニュートラルなメタン(天然ガスの主成分)を製造。都市ガス原料をe-methane化できれば、既存LNG・都市ガスインフラを将来も活⽤できる。

ただし、水素のさらなる利活用にあたっては、製造・輸送コストの低減や水素ステーションをはじめとするインフラの拡充、輸送技術の確立など、克服すべき課題も多い。

CCUS | CO2の回収・貯留・利用で 「実質ゼロ」に貢献

電化や水素化、SAFの導入など、様々なアプローチで低・脱炭素化を進めても、実は削減できるCO2の排出量には限界がある。技術的にどうしても低・脱炭素化が難しい、あるいは高コストになりすぎるなどの領域が存在するからだ。

そんな中、革新的な技術として脚光を浴びているのが、排出されてしまったCO2を回収・利活用・貯留する技術「CCUS(Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage)」だ。

まず、火力発電所や工場などから出た排ガスからCO2を分離・回収する。それを枯渇した油田やガス田などの地層に貯留する技術を「CCS」(CO2の回収・貯留)という。また、回収したCO2を有効利用する技術を「CCU」(CO2の回収・利活用)という。CO2の用途としては、コンクリートやバイオ燃料、化学品、炭酸ガスなどの原料として利用する、油田に圧入して原油の生産量を増やすことに活用する方法などがある。

なお、CCUSの大規模な社会実装には、コスト低減、さらに国内外のバリューチェーン構築が課題として残されている。

アンモニア | 様々な用途に注目、 供給網づくりも開始

肥料や化学製品の原料として利用されてきたアンモニアは、燃焼してもCO2を排出しない特性から、近年では、「発電燃料としての直接利用」や「水素キャリア」といったエネルギー分野での活用に注目が集まっている。

水素は、前述のように、カーボンニュートラル実現のかぎを握る次世代エネルギーである一方、分子量が小さいことからタンクやパイプラインから漏洩しやすい、燃焼速度が速い、などの特徴があり、運搬・貯蔵・使用が非常に難しい物質だ。そこで水素を扱いやすい別の材料に変換して、効率的に運搬・貯蓄しやすくしたものを「水素キャリア」と呼ぶ。

アンモニア(NH3)は、水素(H)と空気中に潤沢にある窒素(N)とを結びつけることで合成できる。発電燃料として直接燃焼しても物性上CO2を排出しないことに加え、様々ある水素キャリアの中でも、水素を高い密度で含み、今も商業取引・利用されている物質であるため商船やタンクなど既存インフラが活用でき、安全に取り扱う技術が確立されていることが強みだ。

一方で、導入にあたって懸念されるのが、供給体制である。現在日本のアンモニアの年間消費量は約100万トン。政府は将来的に2030年で300万トン、2050年で3000万トンの国内需要を見込んでおり、これには国内外でアンモニアのサプライチェーンの規模を拡大していくことが急務だ。

安定供給との両立に挑む「次世代エネルギー部門」

業種・組織の枠を超えた発想や取り組みが求められる、カーボンニュートラル社会への道のり。三菱商事ではこれまでも、グループを横断したプロジェクトを実施し、EXに注力してきた。そのさらなる推進を図るべく、今春からスタートを切ったのが、260名を超える社員による「次世代エネルギー部門」だ。

次世代エネルギー部門は、SAFをはじめとする次世代輸送用燃料の開発に取り組む「バイオ・合成燃料事業部」のほか、水素サプライチェーンの構築を担う「水素インフラ開発部」、合成メタン(e-methane)導入に取り組む「水素事業開発室」、カーボンクレジットにかかわる事業開発などを行う「カーボンマネジメント室」、アンモニアなどの社会実装を目指す「次世代発電燃料事業部」、石油製品事業を通じてカーボンニュートラル社会への移行に向けた課題解決や利便性向上を目指す「リファイナリー事業部」など八つの部署からなる。

商社の総合力を生かして、
カーボンニュートラル社会の実現にさらなる貢献を

総合商社がEXに取り組む意義、強みとは何か。その一つの答えは「広い産業接地面を持つ」ということだろう。可能性を秘めた新しい技術と、その技術に潜在的な需要を持つ業界をつなぐ。あるいは、ある技術単体では越えることが難しいハードルを、別の技術や作業オペレーションを組み合わせることでクリアしていく。そんな柔軟な発想ができるのも、総合商社ならではといえる。

実際に、CO2を回収・利活用するCCUの技術は、燃料や建材、化学繊維など様々な業界で活用が進んでいる。また、SAFの原料調達には、食品のほか肥料や飼料など幅広い産業との連携が役立つはずだ。

さらに、次世代エネルギー部門の創設によって、バリューチェーンの上流から下流までをカバーできるようになる。例えば、水素を海外で製造し、運搬・貯蔵し、燃料電池フォークリフトとして需要家に利用されるまでを一つの組織で担える、といった具合だ。

「社会・経済活動の低・脱炭素化」「エネルギー・資源の安定供給」を通して、カーボンニュートラル社会の実現に貢献し、新たな未来を創造する──。三菱商事の挑戦はいっそう加速していく。

  • 第2回は、次世代エネルギー部門の社員による座談会の模様をご紹介。
    三菱商事の具体的な取り組みや、今後の展望を語り合います。
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