

第1回
ローソン中国
生活を豊かにするインフラへ
中国全土にサービス広げたい
三菱商事グループが世界各地で取り組む事業と、そこで奮闘する社員を紹介するシリーズ。第1回は、ローソンの中国事業を統括する羅森(中国)投資有限公司(上海市、以下ローソン中国)の若き最高財務責任者(CFO)、香月孝文の挑戦を取材した。


11年からブランド再構築 インフラ・情報を付加価値に1万店へ
約10万店ある中国のコンビニエンスストアのうち、いわゆる日本でもおなじみのスタイルの店舗は約5万6千店。日本のコンビニ店舗数と同程度だが、国土面積が日本の約25倍で人口が10倍の中国ではまだまだ市場の伸び代が大きい。
ローソンが中国に進出したのは1996年のこと。上海に1号店を出店後、国有企業への株式譲渡など、紆余曲折の歴史が続いて店舗数が伸び悩んだ。そうした状況を打破するため2010年、ローソンは中国への注力を宣言。「とても順調といえる滑り出しではなかった」。ローソン中国の三宅示修CEOは当時のことをこう振り返る。三宅は1年かけて国有企業と交渉し、出資比率を引き上げると戦略を見直し、数年間はブランド再構築と商品開発力強化などコンビニとしての基本的な仕組みづくりに注力。その基盤が根付くにつれ店舗数は拡大、14年に500だった店舗数は昨年末には約1400に達した。北京、大連、上海、重慶に地域コア会社を置き、それぞれの地域で合弁やメガフランチャイズなどにより店舗展開している。
「コンビニエンスストア事業では加盟店に対する機能を強化し続けることが重要。商品開発ラインや人材育成などのインフラ整備、人気商品情報の共有などが大きな付加価値となり新規加盟希望が増えている。約50ある人口200万人以上の都市をターゲットに店舗展開を進め、20年には4000店、25年以降、1万店を目指す」(三宅CEO)
三宅は中国でのローソンの立場を三国志の蜀にたとえる。競合たちを呉、アリババやテンセントといったメガプレーヤーが引っ張る消費者向け電子商取引市場が魏。「なぜ蜀は滅んだのか。まずは体制を整え、競合と戦えるしっかりとしたインフラを築く。魏の強さも見誤らずその手法を学ぶ」。消費市場拡大を続ける巨大な中国で、次を見据えてのイメトレだ。

高頻度でスイーツ開発も

無人レジを展開
上:高頻度でスイーツ開発も
下:無人レジを展開
日本式コンビニの強みを追求 日中双方のサービス向上へ
こうした市場の急拡大期にCFOとして三菱商事から派遣された香月。清華大学MBA留学時代は優秀な学生たちと接し、ぎりぎりまでリスクを取って利益の最大化を図る中国人の考え方も学んだ。その中で「日本のブランド、ノウハウを世界に展開すること」が日本人としての自分の強みと考え、日本の利便性を象徴するコンビニ文化を広げたいと、ローソン中国事業を志願した。
香月は、日本式コンビニの強みは商品力にあると強調。「お客様に何度も来店してもらうために毎日のように新商品を出し続ける。その中でローソンはおいしさ、原材料、包装パッケージに徹底的にこだわることで支持されている」と分析する。
CFOとしての業務に加え、バックオフィス全般を管掌する自らの役割を次のように語る。「スイーツや弁当など、魅力的な商品を開発し続けるためには、ベンダーとの信頼関係が重要。また、サービス、店の清潔さなど教育も含めた品質向上の取り組みがブランド価値の源泉になる。こうした取り組みを支えるため、バックオフィス業務の業務フローを標準化し、システム化、アウトソーシング化できるところは進めていくのが私のミッション」
現場をサポートする立場として、「ヘルプを求められたら断らない」のがモットーだ。CEOや弁護士などにリスクを相談し是が非でも実現に導く姿勢を貫く。
電子決済が発達した中国では、日本に先んじて無人レジの取り組みも行っている。ローソン中国での決済の8割は電子決済。顧客がスマートフォン(スマホ)でバーコードを読み込んで決済し、表示されるバーコードを無人レジで読み込みレシートを発行する仕組みだ。「日本式の発信だけでなく、中国で進んでいる部分については日本にもフィードバックし、双方のサービス向上につなげていきたい」と語る。

“店舗”ではなく“利便性”を普及 フードロス解決にも意欲
「中国では、日本のようにコンビニが社会インフラ化しておらず、まずはコンビニという文化、利便性の普及を進める必要がある」と香月は語る。
スマホで注文すると即座に弁当が届くサービスが人気と知れば、弁当デリバリー会社と連携し配送サービスも開始した。「店舗という形にこだわらずにニーズを創出し、その結果、地域の人々の生活が豊かになるのが目指す姿」
フードロスにも思いを馳せ、「中国でも最近はようやく食に対してもったいないという意識が広がり始めた。ある程度の店舗のボリュームを持って廃棄削減や肥料化などに先んじて取り組むことで、ブランド価値の向上とサステナブルな社会への貢献を同時に実現することができる」と環境への取り組みにも意欲を見せる。
「中国は人生を考える上での重要なピース。だから少しでも生活を便利で豊かにすることに貢献したい」と語る香月。学生時代、初めての一人旅で上海の空港に着き、右も左も分からず迷っていた香月に手を差し伸べ自宅で一週間面倒を見てくれた家族との出会いが中国の原体験になっている。
「サービスや商品にとどまらず、そもそも店舗という形態が続くかどうかも含め、何が中国の消費者に便利なのかを考え、新しいことにチャレンジしていきたい」――内に秘めた熱い思いを聞かせてくれた。
取材を終えて
中国のローソンで驚いたのはギョーザなどホットメニューや弁当、スイーツの種類の豊富さとそのおいしさ。地域ごとの好みに合わせておでんのだしを変えるといったこだわりに、地域に浸透しようという意気込みを感じる。ランチタイムにレジに並ぶ列の長さを見る限り、都市部ではかなり住民に身近な存在になっているのではないか。香月CFOたちの努力は間違いなく実っているようだ。
2018年3月20日 日本経済新聞掲載広告
企画・制作=日本経済新聞社クロスメディア営業局
