特集 諮問委員会 委員長対談


2024年6月の監査等委員会設置会社への移行およびコーポレートガバナンス体制の改革に至る経緯をどのように評価しているか。
秋山 執行サイドと監督サイドの信頼関係を構築する、そのためにも、情報を全てオープンにして本質的な対話を行うことが取締役会の実効性を担保するために極めて重要です。常日頃から、この点について社内外役員ともに認識されていることが当社の特長だと思っています。この前提があって、当社にとって最適な機関設計は何か、取締役会やガバナンス・指名・報酬委員会の場を使って、丁寧な議論を重ねてきた、と見ていますが、垣内会長から見て、いかがでしょうか。
垣内 おっしゃる通りだと思います。適切なガバナンス体制を構築するためには、執行側と監督側の信頼関係を構築することが大前提です。そのためには、監督側が執行の状況を十分に理解できるように、執行サイドから社外取締役を含む監督サイドに対して必要な情報を全て共有し、速やかに判断できる環境をつくることが重要だと考えています。私自身、取締役会議長という監督と執行の懸け橋の役割を担っており、このことを強く意識しています。今回の改革においても、そのような環境づくりに最も適した機関設計・体制は何かという観点で議論を続けてきました。
秋山 ガバナンス・指名・報酬委員会では、移行の目的について、当社のガバナンスの変遷を踏まえた議論が何度もなされましたね。
垣内 これまで採用していた監査役会設置会社というのは、取締役会の「意思決定」の機能を重視するマネジメント・ボードの典型例ですが、当社では監査役会設置会社の下であっても「監督と執行の分離」を掲げてコーポレートガバナンスを強化してきました。具体的には、投融資案件の付議・報告基準を引き上げて意思決定を迅速にし、取締役会の在り方や審議事項・方法の見直しを進めることで、会社の大きな方向性をしっかり審議する時間を増やしたことが挙げられます。いわゆるモニタリング・モデルですが、取締役会を「監督」機能を重視する体制に進化させてきました。
取締役会や委員会でも何度も議論をしているように、近年は特に、会社を取り巻く環境が複雑かつ驚くべき速さで変化しています。この変化を常に先取りした上で、柔軟に力強く対応していく必要があります。
監査等委員会設置会社では、重要な業務執行の決定の権限を執行側へ委譲することができます。これによって、執行の意思決定スピードが上がると同時に、取締役会は「監督」機能により重点を置ける。まさに、事業環境の変化に適時に対応できるガバナンス体制だと思っています。
秋山 垣内会長のお話を伺い、当時の議論をより鮮明に思い出しました。会長がおっしゃったように、監査役会設置会社としての監督機能が成熟した状況を踏まえて、さらに当社の取締役会の実効性を進化させるため、長年にわたる議論を経て機関設計移行に踏み切ったもので、評価できると考えています。
諮問委員会の体制につき、「コーポレートガバナンス・指名」と「報酬」委員会の2委員会体制に変更した背景は?
垣内 コーポレートガバナンスの最適な在り方というのは、常に変化するものと考えています。内外環境は日々変化していきますので、それを踏まえて最適な形を常に模索していく必要があります。
秋山 だからこそ、これまで当社は「ガバナンス・指名・報酬委員会」という一つの委員会体制を採っていましたが、それぞれの審議内容を拡充させるため、最終的に委員会を二つに分けることが適切という判断に至りました。
垣内 その通りです。秋山さんもご記憶にあると思いますが、委員会の分け方についても相当な時間をかけて議論を重ねましたね。最終的に、取締役や社長後継者の選任にかかわる「指名」と、機関設計、取締役会の規模・構成、実効性評価を含む取締役会の運用といったコーポレートガバナンス全般にかかわる議論とは一体で審議すべきと判断し、引き続き両者は一つの委員会で審議することにしました。
秋山 この委員会の分け方は、当社固有であると思っています。一般的には「ガバナンス」と「指名」ではなく、「指名」と「報酬」がひも付いていることが多いですが、大切なのは当社の企業価値向上に向けた審議をする上で、実質的にどのような形が最適かということです。この点についても社内外役員ともに丁寧に議論を重ね、当社の実態を踏まえた2委員会体制で始めることで意見が合致しました。私自身、実際に当社の経営に数年携わっていますが、ガバナンスと指名を一体で議論する体制はしっかりと機能していると感じています。
各委員会の委員長として、新体制をどう評価するか。
コーポレートガバナンス・指名委員会について
秋山 先ほど垣内会長がおっしゃった通り、委員会の体制について相当な時間をかけて検討を行いましたが、それに併せて、委員長の属性についても審議してきました。指名委員会については一般論として、社長の解任プロセスの実効性が担保される体制であるかが論点となります。もっとも、当社では、諮問機関である指名委員会において十分な議論をした上で最終決定機関である取締役会に上がる、という流れができていますので、この点は、委員長の属性にかかわらず問題なく機能することを事前に確認することができました。
その上で、当社にとって望ましい委員長について検討しました。多岐にわたる産業に従事する当社にとって、執行サイドの社長を経験された取締役会長が委員長を務めることは、事業に対する深い理解に基づく論点を外さずに深い議論を行うために必要と考えています。垣内会長は従前より、取締役会の議長、ガバナンス・指名・報酬委員会の議長を務められていますが、そのスタイルは、全ての意見を聴いた上で、俯瞰した視点からの論点を追加され、それを起点として経営としての議論が一層深まるというものです。これにより、出席者が納得感をもって結論を受け入れることができ、社外役員の意見が組織運営に適切に反映されています。その観点からも、引き続き取締役会長に委員長の役割を担っていただくことが、当社のガバナンスにとって適切であるとの意見で一致しています。
垣内 私自身もその点は意識している点です。ほかには、各委員会のメンバー構成、具体的には、コーポレートガバナンス・指名委員会に全社外役員が委員として入ることについても、意見を交わしました。先ほども申し上げた通り、激動・激変の時代にあり、大きな変化が起こり得る状況にありますから、コーポレートガバナンスの基本方針・基本施策については社外役員皆さんに議論に加わっていただきたいと、私は以前から強く思っていました。フランクな意見交換も交えつつ取締役間での認識を常に一致させて、議論を深めていきたいという思いを皆さんにお伝えしました。
秋山 垣内会長のそのようなお考えに、社外役員としても強く賛同しました。垣内会長・中西社長が常々推進されているように、取締役会の実効性を確保するためには、必要な全ての情報を社外役員に共有してもらうことは不可欠です。また、社外役員同士の認識を一致させてこそ、本質的な議論を行うことができます。当社においては丁寧に議論を進め、信頼に値する答えを導き出すことを重視しており、その観点から、全社外役員を委員のメンバーとすることは自然です。現時点で最適な構成だと考えています。
垣内 そうですね、まずはこの体制でスタートを切りますが、不断に最適な在り方を見直し続ける必要はあり、外部環境や取締役会の運用状況等を踏まえ、委員会のメンバーも含め検討していきたいです。
秋山 おっしゃる通りだと思います。体制は常に見直しながら未来の世代につなげていけるよう尽力したいと思います。
報酬委員会について
秋山 経営陣の報酬が持続的な成長に向けた健全なインセンティブとして機能するよう、報酬制度を設計するのが取締役会の役割の一つです。それを実現するために諮問委員会でしっかりと審議する必要があります。今後、非財務連動指標の評価など、報酬についての審議事項が拡大していきますので、「報酬委員会」をガバナンス・指名・報酬委員会から独立させて審議の充実化を図ること、また、モニタリングの客観性を担保するため社外役員を委員長とすることについて、諮問委員会および取締役会で意見が合致しました。
垣内 この議論を踏まえ、報酬委員会については、秋山さんに委員長を務めていただくことになりました。
秋山 報酬委員会が、報酬制度の観点から、執行による企業価値向上に向けた取り組みを後押しするための重要な役割だと感じています。
垣内 また、審議をより深めるため、コーポレートガバナンス・指名委員会と異なり、報酬委員会の委員の人数は限定していますが、役員報酬のサステナビリティ評価や社長業績評価については、全社外役員が出席して審議する運用としました。
秋山 この運用についても、審議を深めることが期待できる体制であると、諮問委員会および取締役会で意見が合いましたね。
垣内 「報酬委員会」内での審議だけでなく、「コーポレートガバナンス・指名」と「報酬」の両委員会の審議内容を適時適切に共有することで、全体感を見失うことのないよう丁寧に進めていくことも重要だと認識しています。
秋山 おっしゃる通りです。報酬については今年度もいろいろな審議を重ねていく予定です。委員会間の情報共有や、投資家の皆さまに向けた情報拡充を念頭に置き、委員長として真摯に取り組みたいと思います。
最後に、新しいガバナンス体制において期待できる点は何か?
垣内 2024年度は新中経策定に向けた現中経の振り返り、新中経策定への関与が必要な節目となる年です。全社経営の視点を持つ社内役員と、社外役員の方々の専門的なご知見を合わせ、当社のあるべき方向について納得いくまで議論を重ねて、より良い戦略策定・実行を支えていきたいと考えています。そのために、個別案件の審議のみならず、投資傾向や投資方針など当社全体としての考え方については社外役員に都度共有するようにしており、今後も継続していきます。
秋山 監査等委員会設置会社への移行後は特に、MCSVにつながるプロジェクトに関して、議題外報告として社外役員に共有していただく時間が増えたと感じています。このことは非常にありがたいし、重要であると感じています。
垣内 当社のさらなる発展に向けて、社外役員皆さまの知見・視点はますます重要です。引き続きご尽力いただけるとありがたいです。