社長メッセージ

中西 勝也 社長 中西 勝也 社長

創立70周年を迎える三菱商事

当社は、2024年7月1日に創立70周年を迎えました。これまでの歴史を振り返ると、総合商社として事業を営んできた長い歴史の中で、幾度となく「商社冬の時代」や「商社不要論」が唱えられるなど、厳しい事業環境の時期もありました。しかし、そうした時期を乗り越え、三菱商事グループは成長を続けてきました。いつの時代も当社を特徴付けるのは、祖業のトレーディング時代から大切にしている、グローバルかつ幅広い産業との接地面であると考えています。トレーディングから事業投資へ、そして事業投資から事業経営へと、当社は事業環境の変化を捉えてビジネスモデルを柔軟に変えることで、その時々で新たな成長機会を取り込んできました。こうした変遷を通じて蓄積してきた産業知見は今では当社の総合力や多様性の源泉となり、現在の事業モデルの根幹を支えています。

近年は企業への期待役割として持続可能な社会の実現に向けた社会課題の解決が求められていることは論をまちませんが、その解決への道筋は決して単純なものではないと認識しています。例えば世界共通の社会課題である脱炭素化については、昨今の地政学リスクの高まり・顕在化によるエネルギー供給の制約もあり、地産地消である再生可能エネルギーを引き続き推し進めるべき重要な解決策と位置付けられるものの、同時に再生可能エネルギーからの電力は天候頼りであるという特徴(間欠性)ゆえに電力の安定供給という別の課題を伴います。また、進歩の目覚ましいAI技術には生産性を向上させるなど社会課題の解決が期待されますが、その膨大な計算処理を支えるのは21世紀の『産業の米』たる技術基盤としての半導体と、『産業の水』たる動力源としての電力です。社会・生活インフラに不可欠な電力の価格競争力(アフォーダビリティ)にも同時に向き合わなければなりません。これらの課題解決に向けて、一つはいかに電力を無駄なく効率的に使うかというエネルギーマネジメントが重要です。また、このように多様化・複雑化する社会課題に対しては、電力システムの最適化、また低・脱炭素化の役割を担う水素、アンモニア、SAF(持続可能航空燃料)といった次世代エネルギーの商業化などさまざまな取り組みも必要であり、特効薬はありません。だからこそ当社は現中期経営戦略に総合力のさらなる強化を掲げており、これにより社会課題解決に資する取り組みを着実に推し進めることで、持続可能な社会の発展に貢献するとともに、当社の成長につなげていきたいと考えています。

中西 勝也 社長

2022年4月に社長に就任して以来、およそ2年半の月日がたちました。社長に就任してから考え続けているのは、時代時代の課題に対して、その時代の要請に応える形で三菱商事として社会のために何ができるのかということです。当社の経営理念である『三綱領』に『所期奉公』という言葉がありますが、当社は、社会、日本、そして世界をより良くしていきたいという意識の高い会社です。より良くするために当社ができること、やるべきことを実行していくことが、企業価値向上の観点からも肝要であると考えています。

当社はこれまで事業モデルを柔軟に変化させることで成長を続けてきましたが、それを支えてきたのは高い志を持ってその時々の社会課題に挑戦してきた社員にほかなりません。さらには、株主・投資家の皆さま、事業パートナーの皆さまやお客さまなど、多くのステークホルダーの皆さまのご支援があったからこそ、70年にわたって持続的な成長を実現することができたと考えています。当社を日頃から支えてくださっている多くのステークホルダーの皆さまにこの場を借りて感謝申し上げます。

株主・投資家の皆さまの声を経営に反映する

社長就任以来、私や社外役員を含めたマネジメントと、国内外の機関投資家、アナリスト、個人を含む株主・投資家の皆さまとの対話の機会を増やしてきました。皆さまとの対話の中で頂戴した当社の取り組みに対する評価やアドバイスは、速やかにマネジメント間で共有の上、着手が可能なものから都度経営に取り込んでいます。一例ですが、株主・投資家の皆さまへの還元については、対話を通じて皆さまからの期待もしっかり把握した上で、キャッシュ・フローの動向、投資パイプラインの状況および財務健全性を踏まえた判断を行っています。2024年5月には、当社の稼ぐ力の伸長、ならびにキャッシュ・フローの予見性が高まったことから、累進配当制度を維持したまま、配当額を一段高い水準(70円/株から100円/株)に引き上げる決定をしました。足元の業績見通しを踏まえると相応に高い水準ではあるものの、成長投資の推進と財務健全性の維持との両輪でしっかり株主還元に取り組む当社の姿勢を、株式市場の皆さまに一定程度ご評価いただけたのではないかと考えています。
今後も株主・投資家の皆さまとの双方向のコミュニケーションを通じ、さらなる成長を目指していきたいと考えています。

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三菱商事の現在地

前述の通り、当社は創業以来、事業環境の変化を捉えて柔軟に事業モデルを変えることで、祖業の貿易(トレーディング)から、さまざまな産業で事業投資・事業経営を行う企業へと進化を遂げてきました。例えば、LNG事業では石油の輸入販売を軸に築き上げてきた顧客との信頼関係を活かし、1960年代には日本初のLNG導入であるアラスカからの輸入代行業務(トレーディング)を開始しました。その後、天然ガスの液化事業、上流ガス田の開発などへの事業投資を通じて商流を拡大、そして現在ではLNGプラントオペレーターやLNGの直接販売にも取り組んでおり、まさに事業経営へとビジネスモデルを進化させ、当社の『収益の柱』の一つにまで成長しました。

当社は幅広い事業領域とグローバルネットワークから成る総合力(いわばさまざまな「引き出し」を持っていること)を有し、戦略や、事業特性・事業フェーズに応じた柔軟な投資の形態・期間を、自律的に判断できることが強みだと考えています。また、あらゆる産業に深く入り込み、事業経営・オペレーションを推進しているからこそ得られる産業知見と多様な事業群をベースに、社会課題の解決に資する事業を連続的に生み出すことができるユニークな事業体として、当社は成長してきました。こうした当社の取り組みを通じて稼ぐ力が一段と高まっていると株式市場からご評価いただき、そして前述の通り株主・投資家の皆さまとの対話にも注力してきたことで、2023年4月に約6兆円であった時価総額は、2024年10月現在では約12兆円となっています。これは、株主・投資家の皆さまからの期待が大きく高まっているということと受け止めています。今後ますます厳しくなるグローバルでの競争を勝ち抜く上で、決して現状の水準に満足するのではなく、優良投資による継続的な成長、ならびにROEの向上にしっかりと取り組み、また、これらの取り組みをステークホルダーの皆さまに対して丁寧にご説明していくことで、企業価値向上につなげていきたいと考えています。

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循環型成長モデルを通じたさらなる成長

当社は幅広い事業ポートフォリオを有していますが、各事業において取るべき戦略は、その時々の事業環境を適切に捉えた最善のものとなっているかを常に確認し、必要に応じて見直す必要があります。

たとえ足元で収益貢献のある事業であっても、事業環境との整合性や今後の成長性、さらには今後の当社の事業戦略に照らし合わせ、必要とあれば大胆にポートフォリオの入れ替えを行い、次の成長に向けて経営資源の循環を促進していく、これが当社の目指す「循環型成長モデル」です。本経営方針の下、この数年で収益性や成長性を基準に管理する仕組みが社内で根付き、資産入れ替え、資産効率改善の意識は社員一人ひとりに浸透していると実感しています。当社の創出価値・資本効率の向上のため、引き続きこの「循環型成長モデル」を実行していきます。

2024年度の連結純利益は2023年度と同水準にとどまる見通しですが、循環型成長モデル推進により、利益水準のさらなる拡大に向け、既存事業の価値最大化(「基盤固め」)に取り組むとともに、投資決定済案件の着実な収益化(「助走」)、および成長戦略に基づく投資(「仕込み」)を着実に進めていきます。

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MCSVの創出

中西 勝也 社長

当社は、それぞれの営業グループが強い事業を推進することを基本としながらも、グループ間の情報共有やシナジーを通じて、総合力を発揮してきました。昨今、脱炭素化の流れやサプライチェーンの強靭化の流れなど、従来の各自の事業領域だけに専念すればよいという時代から、関連する領域を俯瞰的に、横断的に取り上げる方がより効率的である、という考えになってきています。例えば当社の柱の一つである自動車関連事業については、中長期的には電動化の流れがあり、自動車そのものの販売事業以外にもバッテリーのスマート充電等のサービス、あるいは自動車用電池としての役割を終えたバッテリーの二次利用を行う電力ビジネス、さらにはその先のバッテリーのリサイクルを行う素材ビジネスなど、業界横断での取り組みが必要となる事業機会が多く生まれています。当社の有する複数の関連する強い事業を結び付ける、すなわち「新結合」させることで、当社ならではの新たな共創価値(MCSV:MCShared Value)の創出にチャレンジしていきたいと考えています。

このため、2024年4月に組織改編を行い、現中期経営戦略の推進の中で見えてきた新しい成長ストーリーや今後注力すべきテーマに沿った最適な推進体制を再構築しました。また、成長機会を捉え、よりスピーディーに意思決定ができるよう、コーポレートガバナンスの機関設計を見直し、2024年6月に「監査等委員会設置会社」へ移行しました。それぞれのグループが自分たちの領域でさらなる成長を追求することに加えて、各グループの強みを掛け合わせることで、単なるグループ間のシナジーにとどまらない新しいビジネスモデルを生み出す取り組みを推進していきます。

複雑化する社会課題の解決に向けて、既存事業領域の枠組みを超えた三菱商事グループならではのMCSVを実現することで新たな未来を創り上げていくことが私たちの目指しているものであり、これが当社の企業価値を中長期にわたって高めていくドライバーになると考えています。

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新たなステージへ進むための人材に関する取り組み

当社において人材は最大の経営資源であり、また強みでもあります。前述の通り、当社は個々の人材が持つ力を組織の力に変えることで、変化への対応を実現してきました。一方、事業環境の不確実性は引き続き高まり、さらには、人材領域では労働人口の新世代への交代に伴い、価値観・就業観が多様化し、会社と社員の関係性はより自立的な関係へ変化しつつあります。このような環境下、当社が引き続き魅力ある会社として優秀な人材を獲得・維持するとともに、10年先の事業環境の変化を見据えた人材育成ができるよう、人材に関する中長期Visionを策定しました。当社の社員は、事業の現場経験を積むことで当該事業のプロフェッショナルになり、新規事業の創出や事業の価値向上を実現できる人材となっていきます。これに加え、営業グループ全体や会社全体を見ることのできるポジションもローテーションの中で経験させることで、事業領域を超えたMCSV創出を推進する人材も輩出していきたいと思います。また、DE&Iへの取り組みをはじめ、人材の力を最大限発揮する環境や仕組みの整備についても、現状に甘んじることなく不断に変革を行い、新しい進化を力強く推進する人材を確保・育成していきます。このような人材を多く育て、次にバトンをつなぐことが、私の社長としての最大のミッションだと考えています。

2024年度は中期経営戦略2024の最終年度になりますが、次期中経期間の0年度と位置付け、新しいステージにふさわしい、バージョンアップした新しい三菱商事グループをつくっていきたいと思います。

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