社長メッセージ
不確実性を成長の力に変える
不確実性が高まる時代において、経営に求められるのは、将来を正確に予測することではありません。変化の兆しを捉え、複数の選択肢を備え、事業環境に応じて柔軟かつ機動的に意思決定することです。私は、こうしたレジリエンスを発揮し、環境変化を新たな成長の力に変える経営を目指しています。
足元の事業環境は、国際秩序の揺らぎに伴う地政学リスクの深刻化や、AI技術の急速な発展による産業構造の変化など、さまざまな構造的要因が複層的に絡み合い、これまで以上に複雑で不確実なものとなっています。今年に入ってからも、ベネズエラやイランでの軍事行動を通じて地政学リスクが顕在化し、経済活動に大小さまざまな影響を及ぼしています。
もちろん、今回の事態を正確に予見できていたわけではありません。しかし、私自身が中南米や中東に駐在した経験を踏まえ、こうしたリスクがいつか顕在化する可能性を、常に意識してきていました。
中南米では、政情不安や社会インフラの制約により、想定外の事態がたびたび発生し、その都度前提を確認し、計画を柔軟に見直しながら事業を進める必要がありました。一方、中東では、経済合理性だけで物事を判断することはできません。各国を訪ね、政治・社会情勢の変化にアンテナを張りながら、多様な要因を踏まえて意思決定することが求められました。
こうした経験を通じて、環境は常に変化し、物事が想定通りに進むとは限らないこと、そして、その可能性をあらかじめ織り込んで事業を進めることの重要性を、身をもって学びました。大切なのは、最新の情報を把握することにとどまりません。現場での事業活動や、長年にわたり築いてきたネットワークから得られるインサイトを通じて変化の潮流を見極め、起こり得る複数のシナリオを想定し、備えておくことです。
従来の延長線上で生産性や効率性を追求するだけでは、これからの経営は成り立ちません。常に想像力を働かせて将来像を描き、複数の選択肢を持ちながら、環境変化に応じて柔軟に対応する。当社が長い歴史の中で蓄積してきた産業知見、現場力、ネットワークを最大限に活かし、不確実性を成長の機会に変えていきます。
経営戦略2027の折り返し地点での自己評価
経営戦略2027(経戦2027)の取り組みは、おおむね計画通りに進捗しています。外部環境の変化が公表時点の想定を上回っており、特定の重点投資領域を固定せず、全ての経営管理投資先を対象に「磨く」の取り組みを進めてきた方向性は、間違っていなかったと考えています。
2026年度計画までに織り込んだ施策と、既に利益貢献が始まっている案件を合わせると、2027年度に掲げる4,000億円の増益計画(連結純利益、2024年度比)の半分強について、実現のめどが立っています。経戦2027の折り返し地点において、一定の手応えを感じています。
既存事業の収益力を高める「磨く」、資本再編等を行う「変革する」については、経営管理とモニタリングの体制を一段引き上げました。各事業が目指す成長の姿、その実現に向けた具体的な打ち手とKPIを明確にし、着実に実行しています。その成果は、今年度から利益貢献として表れ始めています。
また、「創る」による新規事業の創出や、営業グループ間の共創による成長の取り込みでも、米国シェールガス事業をはじめ、当社の強みである「総合力」を活かした共創価値、すなわちMCSV(MC Shared Value)の具現化につながる案件が生まれています。
私が考える当社の「総合力」とは、単に多くの事業を保有していることではありません。多様な事業をグローバルに展開し、多彩・多才な人材がオペレーションに深く関与する。長年にわたるその積み重ねによって、顧客やパートナー、地域社会との信用・信頼を築き、幅広い産業知見と深いインサイトを蓄積する。そして、それらを産業や組織の境界を越えて結び付け、時代の変化を先取りして事業を進化させる力が「総合力」です。
当社の強靭な事業基盤を主軸とする成長戦略は維持します。一方、注力領域や資本配分を所与のものとして固定することはありません。事業環境の変化と各事業の競争力を継続的に見極め、「総合力」を発揮し、持続的な成長を実現できるポートフォリオを構築していきます。
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利益成長をけん引する「磨く」「変革する」
経戦2027で掲げた4,000億円以上の増益計画をけん引するのは、既存事業の「磨く」と「変革する」です。想定を超える環境変化によって事業運営の難易度が高まる中、まずは自らが強みを持つ既存事業を徹底的に磨き、次の成長を支える強固な収益基盤を築くことが最も重要だと考えています。
「磨く」の基本は、それぞれの事業が置かれている立ち位置を常に確認することです。市場や競争環境が変化し続ける中、一度確立した事業モデルや競争優位性が、その後も変わらず有効であるとは限りません。従って、事業の現状を客観的に捉え直し、その事業が今後も成長できるのか、競争優位性を維持・強化できるのか、そして株主である当社が事業価値の向上にどのような役割を果たせるのかを、継続的に問う必要があります。

日々のオペレーションを見直し、生産性を高め、コストを削減することは、事業経営の基本であり、終わりのない取り組みです。加えて、AIをはじめとする新たな技術を導入することで、業務の効率化にとどまらず、意思決定の高度化、顧客への提供価値の向上、さらなる収益性の改善につなげられないかを、全ての事業で追求していきます。
これらの取り組みも踏まえ、自らの立ち位置の確認を通じて、競争優位性があり、当社が関与することでさらなる成長を実現できると確信した事業には、経営資源を積極的に投入します。AIの導入などによって事業運営を高度化するとともに、既存の事業基盤や知見を活かしたボルトオン投資を行い、事業領域や生産規模、顧客基盤を拡張することで、収益力を一段と引き上げます。これが、私の考える「磨く」です。
従って、「磨く」とは、単なるコスト削減による短期的な利益改善を意味するものではありません。各事業について、現在の立ち位置と将来性を見極めた上で、改善すべきものを改善し、成長させるべきものに資本と人材を投じ、その価値を最大限に引き出す取り組みです。
中期経営戦略2024では、「磨く1.0」として、要求利回り未達または低成長の事業を洗い出し、資本効率を意識した選択と集中を進めました。その結果、2021年度比で約1,000億円の利益改善を実現しました。
経戦2027では、「磨く2.0」として、要求利回りを達成している事業も含め、全ての経営管理投資先を対象に、全社を挙げて利益の底上げに取り組んでいます。現在の収益水準だけで事業を評価するのではなく、将来の成長余地、競争優位性、当社が価値向上に貢献できる余地まで含めて、その立ち位置を見極めています。
「磨く」の具体的な打ち手は、事業ごとに異なります。リテイル事業では、バリューチェーン全体を見直し、オペレーションの最適化を進めています。ASEAN(タイ・インドネシア)自動車事業では、AIを活用して事業活動を高度化し、既存事業の収益性と競争力の向上に取り組んでいます。サーモン養殖事業では、長年培ってきた事業知見とオペレーション力を活かした拡張投資によって生産規模を拡大し、収益機会を広げています。LNGカナダでは、持分生産能力の増強に向けて取り組んできた成果が、いよいよ利益貢献として表れ始めています。
銅事業では、チリで隣接する他社の銅鉱山との共同開発について、長年の協議を経て合意に至りました。追加のCAPEXをほとんどかけることなく持分生産量を増やすことができる取り組みであり、既存資産の可能性を新たな発想と連携によって引き出す、象徴的な「変革する」の事例です。
一方、事業の立ち位置を見極めた結果、今後の成長性を期待することが難しく、当社が株主として事業価値の向上に十分貢献できないと判断する場合には、漫然と保有し続けるべきではありません。不採算であるか否かだけでなく、当社がその事業のベストオーナーであり続けられるかという観点から、保有の意義を厳しく検証します。
私は、社長の重要な役割の一つは、ポートフォリオマネージャーとして、限りある経営資源を最も大きな価値を生み出せる領域へ配分することだと考えています。成長余地があり、当社の強みを活かせる事業には、人材、知見、ネットワーク、資本を積極的に投入する。一方、成長性や当社の付加価値が見込めない事業については、明確な時間軸を定め、資産・事業の入替を進める。この経営規律を徹底することが、ポートフォリオの新陳代謝を促し、全社の稼ぐ力と資本効率を持続的に高めることにつながります。
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中長期での成長
─「総合力」を支える「知の統合力」で未来を創る
中長期的な成長に向けては、「磨く」「変革する」によって強化した既存事業を基盤に、当社が長年蓄積してきた「知の統合力」を発揮し、新たな収益の柱を創っていきます。
「知の統合力」は当社が長い歴史の中で、異なる産業、文化、地域、時代と向き合うことで培ってきたもので、「総合力」を支えるものであり、変化を先取りして事業を進化させる力です。これは一朝一夕に構築できるものではなく、歴史と信頼、ネットワークを通じ、時間をかけて築き上げた、当社の持続的な競争優位の源泉です。
当社が目指すのは、多様性に裏打ちされた「総合力」を事業環境に応じて発揮し、最適なポートフォリオを構築することで、持続的な成長と企業価値向上を実現する企業です。個々の事業の価値を単純に合計するのではなく、事業間のつながりによって新たな価値を生み出すことで、コングロマリットプレミアムにつなげていきたいと考えています。
6月に開催したインベスターデイでは、中長期の成長に向け、当社の「総合力」を活かして価値創造に取り組む事業領域として、金属資源、エネルギーバリューチェーン、食料資源、C to Bバリューチェーン※の4つをご説明しました。
これらは、低・脱炭素化や電化の進展を背景とした金属資源の重要性の高まり、エネルギー安全保障とエネルギートランジションの両立、拡大するたんぱく質需要への対応、多様化する消費者ニーズへの対応など、中長期的に向き合うべき重要な社会課題と密接に結び付いた事業領域です。
当社は、こうした社会課題に対し、個別事業の単独での貢献にとどまらず、複数の事業群を掛け合わせることで、単なる足し算を超える価値の創出を目指します。
バイオ燃料事業はその一例です。
エネルギー安全保障などを背景に多様化する需要家のニーズに対し、食料事業とエネルギー事業がそれぞれ培ってきた原料調達力、顧客基盤、技術・市場知見を組み合わせ、新たな事業領域を開拓しています。異なる産業で蓄積した知をつなぐことにより、単独の事業では提供できない価値を生み出す取り組みです。

単独事業として利益を上げるだけでなく、事業を組み替え、他の事業とシームレスにつなぐ。その設計次第で、収益の規模だけでなく、安定性や成長性といった収益の質も大きく変わります。このような価値創造が期待できる事業群として、4つの事業領域をお示ししました。
その象徴的な取り組みが、2026年1月に公表した米国シェールガス事業への参画です。参画を決めた理由は、ガス開発事業単独の収益性だけではありません。ガス開発を起点として、当社の既存事業、顧客基盤、販売・トレーディング機能、産業知見をどのようにつなぎ、その先のバリューチェーンを構築するかまで熟慮した結果です。
本事業では、価値創造を3つの段階で構想しています。
第1の段階は、シェールガスの安定生産と販売最適化です。カナダのシェールガス事業や、当社子会社のガスマーケティング会社を通じて培ってきた知見を活かし、安定生産を継続します。同時に、市況に応じた生産調整やヘッジなどによる適切なリスク管理、販売の最適化を通じて、基盤となる価値を創出します。
第2の段階は、ガスのLNG化による追加収益の獲得と、収益源の多様化です。当社のLNG販売事業が有するグローバルな顧客基盤と、LNG販売・トレーディングの知見を活用します。
第3の段階は、米国南部における事業基盤の拡張です。産業集積地・輸出拠点として今後も成長が見込まれる同地域で、競争力のある天然ガスを活用した発電・製造事業への参画を検討します。さらに、ガス・LNGから、電力、ガスケミカル製品などの販売まで、バリューチェーンを拡張する可能性を追求します。
もちろん、こうした構想の全てを一度に実現できるわけではありません。まず基盤となる事業を確立し、その上に新たな機能や事業を段階的に積み上げていきます。収益機会を広げ、収益源を多様化することで、事業環境に応じて価値最大化の手段を選択できる余地、すなわちオプショナリティを確保します。
このような取り組みは、資本を投入するだけでは実現できません。複数の強い事業、それぞれの現場で蓄積された知見、顧客やパートナーとの信用・信頼、地域や産業を越えて築いてきたネットワーク、そして、それらを結び付ける多彩・多才な人材があって初めて可能になります。
私が「知の統合力」という言葉で表したのは、このような力です。これにより、個々の事業をさらに強くするとともに、異なる事業領域を掛け合わせる「新結合」によって、当社ならではの新たな共創価値、MCSVを生み出していきます。どのような時代においても新しい価値を創出できる事業ポートフォリオを構築することが、私がポートフォリオマネージャーとして果たすべき役割だと考えています。
米国シェールガス事業における取り組みは、今年5月に公表した「カーボンニュートラル社会へのロードマップ2.0」で示したEX戦略とも一体のものです。脱炭素社会への移行期間において、天然ガスバリューチェーンを強化し、エネルギーの安定供給に対する社会のニーズに応えていきます。
他方、脱炭素化は直線的に進むものではなく、エネルギー安全保障などとのバランスの中で、振り子のように揺れ動く側面があります。いずれの局面でも対応できるよう、地域のニーズに応じた再生可能エネルギー事業や、社会の脱炭素化のペースに合わせた次世代エネルギー分野への投資にも取り組みます。エネルギーの安定供給と脱炭素化を両立させ、責任あるエネルギー・トランスフォーメーションを実践します。
中長期の成長においても、特定の未来を前提に経営資源を固定することはしません。リスクと機会、当社ポートフォリオの下方耐性を継続的に見極めながら、どの領域で価値を創造するのか、どのタイミングで資本を投入するのかを判断します。複数の選択肢を備え、時機を逃さず行動することで、「総合力」を持続的な企業価値の向上につなげていきます。
- ※Consumer to Business:マーケットインの発想を重視した消費者・顧客起点のビジネス
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資本市場からの評価の受け止めと対応
資本市場から寄せられる期待を、持続的な企業価値向上という確かな成果につなげることが、経営の責任です。そのため経戦2027で掲げた利益成長と資本効率改善を着実に実行し、中長期的な成長力を実績で示していきます。
当社がグローバルに展開する多様な事業、幅広い産業知見、顧客やパートナーとのネットワークについては、これまでも資本市場から一定の評価を頂いてきました。昨今の地政学リスクの顕在化を受けては、優良な資源権益を有することに加え、さまざまな地域と産業で事業を運営してきた経験や、環境変化への対応力も改めて評価されていると感じています。
また、経戦2027における価値創造メカニズムである「磨く」「変革する」「創る」の進捗や、2030年度に向けた成長の姿を具体的にご説明してきたことで、当社の企業価値向上に向けた取り組みを、これまで以上に解像度高くご理解いただけるようになったと認識しています。
まずは、中長期成長に向けた通過点である2027年度ROE12%以上を確実に達成することが重要です。「磨く」「変革する」による既存事業の利益成長を基本としながら、潤沢な投資パイプラインの中から厳選した「創る」の案件によって、新たな利益を積み上げていきます。業績の上振れや為替変動などの状況も踏まえ、必要に応じて資本政策も活用し、目標の達成にこだわります。

当社の株価水準は今年度に入り、PER約16~17倍とTOPIX並みまで切り上がっています。これは、足元の利益成長と資本効率改善への期待に加え、中長期的な成長余力が評価された結果だと受け止めています。
営業収益キャッシュフロー、連結純利益、EPSの成長力を踏まえれば、当社には企業価値をさらに高めていく余地が十分にあります。しかし、市場からの期待だけで評価が持続するとは考えていません。期待を確かな評価につなげるため、利益とキャッシュフローの成長を継続し、実績を積み上げていきます。
今年度は、将来の利益水準に対する予見性が高まっていることなどを踏まえ、累進配当を継続した上で、15円の増配を決定しました。引き続き、営業収益キャッシュフローの成長を実現し、成長投資、株主還元、財務健全性のバランスを取りながら、1株当たり価値の持続的な向上を図ります。
最後に
─株主・投資家の皆さまへ
経戦2027の後半戦において、私は、各事業の収益力をさらに高め、「総合力」を企業価値へと転換するとともに、その成果と経営基盤を次世代に確実に引き継いでいきます。
社長就任以来、株主・投資家の皆さまとの対話の機会 を増やしてきました。対話を通じて頂いたアドバイスやご指摘は、都度マネジメント間で共有し、経営に取り込んでいます。株主・投資家の皆さまは、当社にとって重要なステークホルダーであると同時に、中長期的な企業価値向上を共に目指すパートナーです。今後も、双方向の率直なコミュニケーションを重視してまいります。
企業価値向上に向けた取り組みを持続的なものにするためには、次世代の経営を担う人材の育成と、適切な承継も極めて重要です。私自身、社長就任時に「常に次の経営を見据えて仕事をしなさい」と言われたことを、今でも強く意識しています。
事業環境の変化がこれまで以上に速く、大きくなる中、経営者には将来のあり姿を描く構想力に加え、挑戦する胆力と、多様な価値観を受け入れる柔軟性が求められます。同時に、自ら現場に足を運び、現場の感覚を研ぎ澄ますことで、変化の兆しを的確に捉え、意思決定につなげる力も不可欠です。
さらに、当社の次世代リーダーには、多様な事業を個別に理解するだけでなく、異なる産業や地域で蓄積された知見をつなぎ、全社の価値創造に結び付ける力が必要です。当社の「総合力」は、組織図や事業ポートフォリオそのものに存在するのではありません。異なる経験と専門性を持つ人材が、互いの知見を持ち寄り、新しい価値へと転換することで初めて発揮されます。
当社では、コーポレートガバナンス・指名委員会において、将来の経営人材に求められる要件を継続的に議論し、次世代リーダーの育成 に取り組んでいます。多様な現場で経験を積み、異なる価値観を理解し、全社的な視点から事業と資本を動かすことのできる人材を、計画的に育成していきます。
経戦2027の後半戦でも、各事業の収益力を高め、企業価値向上を実現することはもちろん、その成果と志を次世代へ確実に引き継ぎます。歴史の中で築いてきた信用・信頼、ネットワーク、産業知見を守るだけでなく、新しい時代に合わせて進化させる。そうすることで、将来さらなる成長を実現できる土台を築いてまいります。
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