Message from the CFO

CFOメッセージ

持続的な企業価値向上に
向けた適切な資本配分

野内雄三 代表取締役 常務執行役員 コーポレート担当役員(CFO)

中期経営戦略2021の最終年度を終えて

最終年度は過去最高益を更新した
「中期経営戦略 2024」につながる好決算

2022年3月期の連結純利益は、前年度比7,649億円増益の9,375億円となり、過去最高益を更新しました。10セグメント中、7セグメントで過去最高益を更新しています。これは、資源価格の堅調な推移に加え、経済の回復局面において、自動車関連事業や鮭鱒養殖事業をはじめ、各事業で収益機会を捉え、年度を通じて着実に利益を伸ばしたことによるものです。また、今後の不透明な事業環境に対する備えとして、資産評価の見直しなどを通じ、懸念される損失は、できる限り取り込んでいます。2022年3月期は市況の追い風もありましたが、不採算事業の整理や損失手当てなど、バランスシートの強化や健全化を着実に進めたことで、中期経営戦略 2024につながる好決算だったと総括しています。

中期経営戦略2021を踏まえ
中期経営戦略2024へ

前中期経営戦略の最終年度である2022年3月期の連結純利益は、目標としていた9,000億円を上回る結果となりましたが、新規投資については当初想定通りには進みませんでした。新型コロナウイルスの感染拡大という大きな環境変化を受け、財務健全性の維持・改善に優先的に取り組む必要があったためです。投資は案件を厳選して取り組み、当初計画3.4兆円に対し、2.5兆円の支出となりました。資産入れ替えによる投資回収も加速させ、当初計画0.7兆円に対し、1.5兆円の回収となりました。結果として、2022年3月期末時点では財務健全性の指標である投融資レバレッジについては、41%※まで改善しました。適正レンジは40~50%と考えており、新しい中期経営戦略2024を開始するにふさわしい財務健全性にすることができました。

株主還元に関して振り返ると、累進配当政策の下で、一株当たり2020年3月期132円、2021年3月期134円、2022年3月期150円の配当を実施しました。配当に加えて、最終年度に発表した700億円の自己株取得も合わせると3年間の累計総還元率は42%の水準に達しました。2021年3月期は大きく業績が悪化した中でも、市場にお約束した累進配当を守り株価を下支えしたとの評価の声も多く頂き、累進配当政策については中経2024での資本政策にも反映されています。

最終年度に決定した自己株取得700億円を含む
連結純利益推移
中期経営戦略2021における投資キャッシュ・フロー(CF)

持続的なTSR向上に向けて

財務健全性の維持と資本効率の向上を
両立させる資本配分が鍵

CFOとして重要な責務の一つがキャッシュ・フロー(CF)および資本の配分を考えることだと思っています。端的に言うと投資と還元です。持続的にTSR(Total ShareholderReturn/株主総利回り)を向上させていくためには、「財務健全性の維持」と「資本効率の向上」を両立する必要があり、そのための手段である投資・資産入れ替え・還元などの資本配分の巧拙が問われると思っています。

具体的には、中経2024期間中は、営業CFと投資回収CFから創出される4.5兆円のうち、収益基盤の維持・拡大、EX・DX・成長投資関連等で3兆円の投資を行うとともに、0.7兆円以上の株主還元を行う方針です。

投資については、EX関連分野への投資を加速する方針で、投資枠3兆円のうち、1.2兆円を投資枠として割り当てていますが、決して金額ありきで投資を行うものではありません。むしろ現場から積み上がってきた候補案件をすべて行うためには、1.2兆円では足りません。候補の中から案件を厳選し、投資規律を緩めることなく、個別案件ごとにROICなどを見ながら案件を精査していきます。また、EX関連は収益化までに比較的長い時間を必要とする案件もあるため、相対的に短い時間軸で収益化が期待できる既存の収益基盤の維持・拡大にもバランスよく投資していく必要があるとも考えています。

株主還元の0.7兆円以上は、持続的な利益成長に応じて増配を行う累進配当政策を中経2024の3年間も継続することから、2023年3月期の配当見通し150円をベースに下限値として示しています。

事業価値を高めROEを極大化していくことが企業としての一丁目一番地ではありますが、還元という面でもしっかりと株主の皆さまの期待に応えるべく、市場との対話を重視していきます。前中経2021下での累進配当政策は相応に評価頂いていますが、商品市況の動きに伴う業績変動が一定程度想定される中、累進配当政策のみで市場の期待に応えるのは難しいでしょう。そのような考えから、中経2024では累進配当は維持しつつも、機動的な自己株取得との組み合わせにより、総還元性向という指標で市場の期待に応えていくという資本政策を導入しました。

キャッシュフロー(CF)・資本配分

最後に
MC Shared Valueの創出について

中経2024では、三菱商事グループの総合力強化による社会課題の解決を通じて、継続的に生み出されるスケールのあるMC Shared Value(共創価値)を創出する方針を掲げました。社会課題の解決と聞くときれいごとのように感じる方もいるかもしれませんが、もはや社会価値と環境価値を伴わなければ、持続的な経済価値を実現できない時代になってきています。価値を生み出し、それを提供することで自らも利潤を得るというのは、ビジネスの基本構造であり、提供する価値と稼得する利潤のバランスを間違えるとビジネスが長続きしないことは、誰もが肌感覚で理解していることでしょう。世の中が複雑化するにつれ、この関係が売り手と買い手に留まらず、さまざまなステークホルダーを巻き込んだ関係に拡張されてきているものだと認識しています。当社はエネルギー・金属資源・食料等の供給や事業の海外展開等、社会のニーズと重なる分野で多くのステークホルダーとの接地面も持ち、しっかりとその強みを発揮してきました。今後も変容していく社会課題の解決を通じて、社会と共に持続的成長を実現できると信じています。

Message

この度CFOに就任いたしました野内です。入社して35年、さまざまな経験をさせていただきました。為替ディーリングに始まり、財務、経理の分野を中心に担当し、香港と米国の海外駐在も含め、5年前後の周期で異動する中、とにかく目の前の仕事に一生懸命に取り組んできました。与えられた機会に、やるべきことを徹底的にやってきたことで、少しずつでも成長できたのだと思いますし、今の自分の糧になっていると感じます。

2018年よりこの4年間は、主計部長として全社経営に参画することで、社外のさまざまなステークホルダー、特に株主をより強く意識し、当社グループへの期待をじかに感じることができました。その期待とは、配当だったり、中長期の成長性であったり、ブランド力であったりとさまざまですが、一言で言えば企業価値の向上です。現在の株価にはその本来の価値が充分に反映されているとは思っていません。資本効率の向上は必須ですが、株主資本コストについても課題意識があります。株主資本コストにはさまざまな定義がありますが、例えばその一つであるPER(株価収益率)の逆数(1/PER)は、CAPMなどにより計算される資本コストより随分高いものだと感じています。その要因の一つは実力値(持続的な収益レベル)の解像度にあるのかもしれません。

当社の業態は分かりにくいと言われることも多いですが、株式市場との対話やコミュニケーションを通じて、資本コストの削減に有効な方法も探っていきたいと思っています。