気候変動

EX戦略の前提となる
マテリアリティ

マテリアリティ:脱炭素社会への貢献

気候変動に対する当社の方針

地球(生態系)や人間・企業活動に重大な影響を及ぼす気候変動は、当社グループにとってリスクであると同時に新たな事業機会をもたらすものと考えています。当社が持続可能な成長を目指す上で、マテリアリティ「脱炭素社会への貢献」は、対処・挑戦すべき重要な経営課題の一つです。

三菱商事はエネルギー需要の充足という使命を果たしながら、SDGsやパリ協定で示された国際的な目標達成への貢献を目指し、当社グループ各社と連携の上、政府・企業・業界団体等の幅広いステークホルダーとの協働を通して、これに取り組んでいきます。

2050年ネットゼロに向けた取り組み

GHG排出量の削減目標

当社は、2021年10月に策定した「カーボンニュートラル社会へのロードマップ」にて、パリ協定に整合するGHG(温室効果ガス)排出量の中長期の削減目標として、「2031年3月期半減(2021年3月期比)、2050年ネットゼロ」を目指すこととしました。2031年3月期の半減目標達成に向けては、あらゆる手段を最大限活用し、再エネ調達や燃料転換を含めたオペレーション上の削減や資産の入れ替えを進めていきます。また、その先の2050年に向けては、当社の総合力を活かして産業変革を促すとともに、新技術・イノベーションを積極的に活用することで、パリ協定の目標達成・ネットゼロを目指します。

左記の2031年3月期削減目標を確実に達成するためには、より適切なGHG排出量の管理プロセスを整え削減進捗を把握し、これを開示することが重要と考えています。この考えの下、下記記載の通り「中期経営戦略2024」において投資計画策定にあたり、短中期のGHG削減計画を確認する新たなプロセス(「GHG削減目標を踏まえた投資計画」)を導入しました。また、各年度のGHG排出量は従来通り今後も適切に開示し、2031年3月期目標に向けての削減進捗を示していきます。2022年3月期末時点における削減進捗状況は以下の通りです。

  • ※1 出資比率基準に基づくScope1・2排出量であり、関連会社のScope1・2排出量の当社出資持分相当分を含む。また、基準年度数値には火力発電・天然ガス事業の①投資意思決定済かつGHG未排出の案件の想定ピーク排出量、および②一部稼働開始済事業のフル稼働に向けて確実に見込まれる排出増加幅を含む。
  • ※2 769万トンは出資比率基準での子会社のScope1・2排出量。仮に支配力基準を採用した場合は832万トンに相当。詳細はこちらをご参照ください。
  • ※3 削減努力を進めた上で、なお残存する排出量については、炭素除去を含めた国際的に認められる方法でオフセットを行う前提。また、GHG排出量削減目標に係る削減計画や施策は、技術発展・経済性・政策/制度支援などの進捗に応じて柔軟に変更。
GHG排出量(Scope3)について

上記の当社削減目標およびGHG排出量実績はScope3のカテゴリー15相当分を含んでいます。さらに、当社におけるScope3排出量の大半を占めるカテゴリー11(販売した製品の使用)を適切に開示することの重要性を認識しています。開示に向けては、当社事業の実態を正確に表した排出量を算出するべきと考えており、開示に向け、鋭意検討を継続していきます。

中期経営戦略2024/GHG削減目標の達成に向けた取り組みのメカニズム導入

「中期経営戦略2024」では、ロードマップでのGHG削減目標の達成に向け、当社の各事業を気候変動の移行リスク・機会に応じて分類し、ポートフォリオの脱炭素化と強靭化を両立させるメカニズムを導入しました。従来より実施してきた「シナリオ分析」に、新たに「トランスフォーム・ディスカッション」、「GHG削減目標を踏まえた投資計画」、「新規投資の脱炭素採算評価」の施策を導入し、エネルギー需要の充足という使命を果たしながら、パリ協定で示された国際的な目標達成に向けて諸施策を推進していきます。

TCFDに基づく開示内容

ガバナンス

重要な経営課題の一つとして、気候変動に係る基本方針※や重要事項を、社長室会にて決定するとともに取締役会に報告しています。社長室会の審議に先立ち、サステナビリティアドバイザリーコミッティーにおいて社外有識者より助言・提言を受けることに加え、サステナビリティ・CSR委員会において十分な討議を行っています。

なお、気候変動に関する経験・見識・専門性等に基づく貢献を期待する取締役・監査役を複数選任しています。

※ 気候変動に係る基本方針としては、事業を通じた取り組み方針、TCFD対応方針等について、また重要事項としては、気候変動リスク・機会の評価の在り方(含む、シナリオ分析)、温室効果ガス削減目標(含む、削減状況)等を討議しています。

これまでの取り組み
気候変動関連のガバナンス体制
リスク管理

新中経で導入した、ポートフォリオの脱炭素化と強靭化を両立させるメカニズムを下図のフローの通り運用することで、気候変動リスクの高い事業の特定から個別案件の採算影響評価に至るまで、リスク管理を機能的に行います。

また、既存のサステナビリティ関連のガバナンス体制をベースに、取締役会も適切に関与するように仕組みの構築を進めていきます。

戦略
移行リスク・機会
モニタリング対象事業決定までの詳細プロセス

従来の2℃シナリオに加え、さらに低・脱炭素化が進むことを前提とした「1.5℃シナリオ」を用いて気候変動関連リスク・機会分析を実施の上、当社事業戦略への織り込みを実施しました。

シナリオ分析結果を踏まえた方針・取り組み

上記プロセスで抽出したモニタリング対象事業(リスクサイド)のうち、主な事業のシナリオ分析結果※は以下の通りです。

※ シナリオは、過去データに基づく予測ではなく、不確実性が高い事象において、考えられる事象を基にした仮想的なモデルになります。記載したIEA等の国際的な機関が提示する主なシナリオに対する当社の認識であり、当社の予想する中長期的な将来見通しではありません。

発電
(化石燃料)
1.5℃シナリオで示される一般的な事業環境認識
  • 電力はネットゼロを達成する最初のセクターとなり、化石燃料由来の発電量が占める割合は大幅に減少する見込み。
  • 炭素税等の規制強化による発電コスト構造の大幅な変化や、GHG排出量削減策として期待される設備投資の増加が見込まれ、化石燃料由来の電力の競争力低下が想定される。
事業環境認識を踏まえた方針・取り組み
  • 座礁資産化の可能性、撤退難易度の上昇、継続保有に伴うレピュテーションリスクの高まりを認識。
  • 新規石炭火力案件には取り組まず、売却難易度を左右する要素(M&A市場動向、当該国との関係性、契約上の制約、環境規制等)を注視の上、既存火力資産の戦略的なダイベストメントを遂行。並行して、継続保有する火力資産のゼロエミッション化を検討。2050年までに非化石比率100%を目指す。
原料炭
1.5℃シナリオで示される一般的な事業環境認識
  • 鉄鋼需要は、2050年に2020年比で12%増加。電炉法や水素還元製鉄法の利用が進展するとともに、高炉向けのCCUSが急拡大し、一部地域では高炉法が継続する。
  • 2050年に向けて原料炭全体の需要減少は見込まれるが、継続利用される高炉では、一層の効率化やCCUS付帯を行うことで低・脱炭素化を図っていくため、低炭素化に寄与する高品位原料炭の需要は、相対的に減少幅が小さい。
事業環境認識を踏まえた方針・取り組み
  • 1.5℃シナリオ下でも、既存高炉の低炭素化に貢献する高品位原料炭のニーズは相対的に高まる見通しであり、高品位原料炭を主力商品とする当社原料炭事業の優位性は一定程度維持される見込み。
  • 今後も鉄鋼業界の脱炭素化の進展ならびに、原料炭供給に影響を与える外部環境を見極め、当社原料炭資産の競争力強化に取り組む。
  • 当社原料炭事業の生産プロセスで排出されるGHG削減や、パートナーのBHP社と共同で、原料炭バリューチェーン全体での排出量削減に資する研究支援に取り組む。
天然ガス
1.5℃シナリオで示される一般的な事業環境認識
  • 全世界の天然ガス需要は、2018年比で2030年断面において6%減少する一方、LNG貿易量は同年比16%の増加が見込まれる。その後、2040 年断面での天然ガス/LNG 貿易量は2018 年比でそれぞれ46%/33%の減少を見込む。
  • また、低・脱炭素社会を支えることが期待される次世代エネルギーの水素需要が高まり、ブルー水素の原料としての天然ガスの重要性は今後さらに増すと想定される。
  • 2050年時点では、天然ガスの需要全体の約半分が水素製造に向けられ、水素需要の40%が天然ガスによって賄われる見込み。
事業環境認識を踏まえた方針・取り組み
  • 既存事業の基盤強化や建設中案件の着実な立ち上げ、販売力強化と競争力ある新規プロジェクトへの参画などを通じ、カーボンニュートラル社会への移行期において重要なエネルギー源であるLNGの安定供給責任を果たすとともに、LNG事業の収益拡大を目指す。
  • 天然ガス/LNG事業の競争力・収益力を左右する要素となり得る炭素税導入等の各国政策、CCUS等の技術開発に関する動向に留意するとともに、LNGバリューチェーン自体のカーボンニュートラル化への取り組みや、合成メタン・ブルー水素などの次世代エネルギーの製造・供給についての検討を進める。
事業戦略への織り込み

モニタリング対象事業(リスクサイド・機会サイド)として抽出された8事業については、ポートフォリオの最適化を図るべく、各営業グループによる事業戦略策定時に1.5℃シナリオを低・脱炭素シナリオとして考慮の上、各事業での移行リスク・機会分析の結果を戦略に織り込んでいます。

物理的リスク

当社グループの一部事業では、特にその操業において物理的リスク(冠水、渇水、気温上昇等)による影響を受ける可能性があります。物理的リスクによる当社グループの事業への影響を網羅的に把握するため、以下のプロセスに沿った物理的リスク分析を行っています。

網羅的分析プロセス
分析結果

上記プロセスで特定した物理的リスクによる影響を受ける可能性が高い資産となった2事業における現状の対策および今後の対応方針は、以下の通りです。

分析対象資産
原料炭事業

BHP Mitsubishi Alliance※が保有する炭鉱

銅事業

Anglo American Sur, S.A.が保有する銅鉱山

所在地
原料炭事業

豪州

銅事業

チリ

ハザードの種類
原料炭事業

大雨による冠水

銅事業

渇水

現状の対策
原料炭事業

炭鉱での大雨による冠水が操業の中断を引き起こす可能性があると認識し、2011年の大雨に伴う冠水以来、以下の対策を講じ耐性を高めている。

  • 気象予測を踏まえた貯水管理計画の運用。
  • 休山中の採炭ピットの大規模貯水池としての活用。
  • 貯水池・炭鉱間の送水管・排水・堤防設備による総排水能力の増強。
銅事業

操業に必要な水の大半は鉱山内で再利用しているが、蒸発等で失う一定量については外部からの取水が必要となる。渇水が起きると十分な取水ができなくなり操業への影響が出る可能性があることから、第三者からの産業排水や処理済下水の調達を増加させることで耐性を高めている。

今後の対応方針
原料炭事業

将来の気候変動による物理的リスクの激甚化も踏まえ、今後も継続的な対策強化に取り組む。

銅事業

現状の対策に加え、水の外部調達手段の多様化を検討中。また、鉱山内の水リサイクル率のさらなる向上につながり得る新技術についても検討している。

※ 高波リスクに対しては、最新の自社港湾インフラを気候変動・サイクロンに伴う波高の上昇も考慮の上、1000年に1度の高波を想定した設計とし、現在、同様の基準で港湾設備のアップグレードのプロジェクトを行っている。

指標と目標

当社では、連結ベースで気候変動関連の機会の取り込み、リスクの低減を目指して、以下の目標を設定しています。また、GHG排出量削減目標の達成に向けては、毎年のGHG排出量の実績開示を通じた進捗管理を行っています。

目標 1
GHG排出量の削減目標
  • 2050年GHG排出量ネットゼロを前提とし、2031年3月期中間目標と具体的な削減計画を策定。
  • 火力資産のダイベストメントを中心としたポートフォリオ入替などにより、2031年3月期までにGHG排出量の半減(2021年3月期比)を目指す。
目標 2
非化石比率
  • 既存火力発電容量の削減、およびゼロエミッション火力への切り替えで、2050年までに当社発電事業における非化石比率100%化を目指す。
目標 3
再生可能エネルギー
  • 2031年3月期までに再生可能エネルギー発電容量2020年3月期比倍増を目指す。

低・脱炭素化事業

当社は、低・脱炭素化を当社が対処・挑戦すべき重要な経営課題の一つと捉えており、さまざまな分野で事業を通じた低・脱炭素化を推進しています。特にエネルギー分野においては、当社内でEX(Energy Transformation)と称し、脱炭素社会を見据えたエネルギー分野の変革への挑戦およびその過程におけるエネルギー関連の事業ポートフォリオの進化を通じ、全産業にまたがる共通課題である低・脱炭素化に取り組んでいくことで、環境課題への適合と、エネルギー安定供給という社会的使命の両立を図り、当社の中長期的な持続的成長につなげていきたいと考えています。