社長メッセージ
社長メッセージ
さまざまな“つながり”を重視しながら、
総合力を活かした三菱商事ならではの
価値創造を目指します
代表取締役 社長
外部環境認識を踏まえた三菱商事の挑戦
コロナ禍からの回復の過程で正常化されると思われていたグローバルサプライチェーンは、ロシアによるウクライナ侵攻に伴い、さらに脆弱性を露呈しました。歴史的なインフレの中、欧米が金融引き締めに舵を切り、為替相場は大きな変化に見舞われていますが、実体経済や金融システムへの影響についても注視する必要があります。また、引き続き米中関係は予断を許しませんが、中国における不動産不況の影響から、当面の間、低成長に留まる展開も想定しておかなくてはなりません。
このように不確実性が高い足元の環境下ではありますが、三菱商事は創業以来の社是である「三綱領」の下、その時々の社会の変化や課題に合わせ、蓄積されたインテリジェンス・産業知見などの経営資本を含めた総合力を発揮しながら、課題の解決を通じた価値の創造に常に邁進してきました。私としても、先を見通し難い昨今の状況下において、様々な可能性を想定して「備える意識」を常に持ちながら、世界各地の事業拠点を通して得られる質の高い情報をつなげ、そこで導き出される複眼的な当社独自のインテリジェンスを駆使しながら、半歩先・一歩先を読み、変化に対応していくことを強く意識しています。
例えば脱炭素に関しては、米国ではインフレ抑制法が制定されたことに伴い、脱炭素関連のプロジェクトや技術革新が加速度的に進展していくことが想定されます。欧州も、足元の厳しい情勢から一時的にスローダウンを余儀なくされる可能性はあるものの、「脱炭素」と「脱ロシア依存」の両立という明確なアジェンダに基づき、グリーンへの移行を目指す長期の方向性に揺るぎはないものとみています。中国のEV化への対応には目を見張るものがあります。
全世界・全産業において低・脱炭素化の潮流は不可逆の流れと考えていますが、国や地域によっては脱炭素化までの道のりや時間軸が異なったものになるとみています。そういった中で、多様なポートフォリオを保持し、低・脱炭素化に関連するさまざまな事業にも取り組んできた当社にとっては大きなチャンスがあると私は確信しております。
日本に目を向けると、過去30年間、日本企業は海外で上げた収益を日本に還流させてはいるものの、その還流した資金を国内の成長投資に上手くつなげられず、経済の長期低迷を招いてきました。一方で、世界的にみて政治も治安も安定しており、技術力もある日本には、再び経済的に成長軌道に乗るポテンシャルが大いにあるとみています。
ここで重要なのは、当社はグローバルな会社であるとともに、日本の会社であるということです。日本の国力が落ちていくと、日本のプレゼンスが世界と比して相対的に下がります。そして日本のプレゼンスが落ちるということは、日本の企業のプレゼンスも相対的に落ちることにつながります。だからこそ当社としては日本の国力の強化に貢献したいと考えていますし、そのための有効な手段として、新産業創出や地域創生を通じた未来創造に携わることが重要だという考えを私は持っています。
こうした認識の下で、2022年5月に公表した中期経営戦略2024(以下、中経2024)では「EX・DXの一体推進による未来創造」を掲げ、現在その遂行に励んでいます。カーボンニュートラル社会の実現、エネルギーの安定供給、産業競争力の維持・向上の3つのアジェンダを実現させ、MC Shared Value(以下、MCSV)の創出を通して日本経済の復活に目に見える形で貢献していきながら、当社の成長につなげたいと考えております。
中期経営戦略2024の進捗について
中経2024を公表して1年超が経過しましたが、その進捗には相応の手応えを感じています。幾つかの側面から以下の通り具体的にご説明したいと思います。
定量・還元
2022年度の当社の連結純利益は、資源価格の追い風を受けたことに加え、循環型成長モデルの実践として不動産運用会社の売却益を計上したこと等により、懸念される損失を適切に手当てした上でも過去最高の1兆1,807億円となりました。2023年度および2024年度につきましては、資源価格の下落等も受け、2022年度対比では減益を想定していますが、非資源分野をはじめとした既存案件の成長や、循環型成長モデルの促進に伴う売却益等も含め、相応に高い利益水準を想定しています。
株主還元についても、中経2024公表時には、配当と自社株買いを合わせた総還元性向は30-40%程度を目途としていましたが、株式市場との対話において頂戴したご意見も参考としながら、還元に関する予見性向上の観点も踏まえ、2023年度以降は40%程度を目途とする方針へと変更しました。このうち配当については、累進配当を継続する前提で、2023年度の一株当たり配当見通しを200円へと引き上げました。さらに2023年5月には、キャッシュ・フローの動向等を踏まえ、2,000億円の追加の自社株買いを公表しました。2023年度以降もバランスの取れた機動的な株主還元を引き続き検討していきます。
EX戦略の進捗
中経2024の成長戦略の1つであるEX(エネルギー・トランスフォーメーション)戦略については、EXタスクフォースを中心とした関連グループ間での議論を経て、当初200件ほどあった投資先候補のロングリストから、この3年間で何に優先的に手を打つのか、案件を精査し、ショートリスト化が概ね出来上がっています。もちろん、マネジメントとしては、各地域の政策動向なども踏まえて不断の戦略見直しは行っていきますが、今後リストに基づく投資が本格化していくことを見込んでいます。EX関連投資は時間軸の長い取り組みも含まれておりますが、多様な事業をつなげるEXバリューチェーンの構築や、今まで培った事業知見を活かして先見性を持って投資することから生まれる安定収益やキャピタルゲインの組み合わせにより、十分な収益性を確保すべく取り組んでいきます。エネルギーセクターは、昨年の資源価格の急騰の結果、世界各国で様々な歪みが露呈してきています。資源・エネルギー分野における当社の長年にわたる安定供給への貢献やその実績に鑑みても、当社によるEXの取り組みは、エネルギー自給率が極めて低い日本において、日本経済が力強さを取り戻す上で欠くことのできないものであるとの使命感・自負を持って、取り組みを進めています。
DX戦略の進捗
DX(デジタル・トランスフォーメーション)戦略については、2022年に新設した産業DX部門と営業グループが連携しながら、物流最適化や生産性向上に向けて複数の案件を推進しています。2022年には、三菱食品物流センターにおける食品流通DXの実装が開始するなど、具体的な成果も出てきています。
当社は中経2024においてEX・DXの一体推進を掲げていますが、DXはEXを支える手段としても不可欠なものとなります。例えば当社が進めている再生可能エネルギー事業は天候の影響を受けるため、DXを駆使した最適化が重要となります。EVフリートマネジメント事業においてもDXの活用が鍵となると考えており、こうした事例をはじめとして、EX戦略と一体で取り組んでいきます。
未来創造(新産業創出 × 地域創生)
当社は、未来創造を新産業創出×地域創生と整理しており、両者を合わせて未来創造を進めています。国立大学法人京都大学による起業支援プログラム「京都大学・三菱商事Startup Catapult(スタートアップ カタパルト)」の新設支援をはじめ、さまざまな企業・教育研究機関・自治体との連携が進んでいます。新産業創出を通じた日本の国力回復への貢献も意図していますが、「技術革新」と「産業構造変化」に対する当社のインテリジェンスの向上にも資する取り組みであると確信しています。技術革新やデジタル技術のさらなる進化による産業変革が起きる可能性などについてのインテリジェンスを高めていくことは、将来の新たな事業戦略を考える上で極めて重要なアプローチです。EV普及による自動車産業の構造変化、再エネを組み入れたエネルギーサービス分野の変化、デジタル技術を駆使した物流・医療・金融分野での変革など、さまざまな業界・分野での技術革新・産業構造変化が予想を超えるスピードで非連続的に起こっています。これらの動きに対してインテリジェンスを駆使し、事業を構想し、そして構想の実現につなげていくことを目指します。
中経2024の公表以来、数多くの全国の自治体と意見交換を重ねてきており、複数の自治体と新たに連携協定を締結し協力体制を構築している他、当社はマルハニチロ(株)と共に、2022年10月に富山県入善町において、サーモンの陸上養殖事業を行う合弁会社アトランドを設立しました。デジタル技術を活用した陸上におけるサーモンの持続可能で安定的かつ効率的な生産体制の構築、地産地消型ビジネスモデルの実現を目指します。
循環型成長モデルの促進
中経2024において成長メカニズムとして掲げた、循環型成長モデルへの取り組みを加速しています。2022年10月に総点検を実施して入替対象の候補の洗い出しを行い、営業グループにより入替方針と選定された先については、順次入れ替えを進めています。2022年のMC-UBSR社の売却や2023年の食品産業グループ関連会社の売却など、次の成長に向けて、収益貢献のある事業においても積極的にポートフォリオの入替を行ったことに加え、低利回り先の削減も進んでいます。また、売却案件に限らず、国内外それぞれの事業現場で、不断の見直しによるムリ・ムダの徹底的な改善や事業環境の変化への対応を進めるとともに、更新投資の着実な実行と収益化を通じて既存事業の競争力を上げていくことを通してポートフォリオの強靭化にも不断に取り組んでいます。
人的資本の価値最大化
当社の価値創造にとって最も重要な資本の一つである人的資本についても私の考えを述べたいと思います。昨今、人的資本やDE&Iといった用語をさまざまな機会に耳にするようになりましたが、従来から当社にとって人的資本は全ての価値創造の源泉として必要不可欠なものとして、私自身としても常に念頭に置いてきました。そしてこの人的資本の価値最大化に向けては社員エンゲージメント強化が重要となりますが、この打ち手の一つとして、DE&I推進を強く意識しています。世の中の産業の壁が低くなってきている昨今の状況下においては、多様性を持っている企業に勝機がありますし、DE&I推進は、企業の競争戦略上において従来以上の重要性を持っていることを感じます。こういった想いを基に、中経2024の人事施策においては、“多彩・多才な人材がつながりながらMCSV創出に向け、やりがいと誇りをもって主体的に責任を果たす”―そうした「イキイキ・ワクワク、活気あふれる人材と組織」を実現することで、人的資本の価値最大化を目指すことを掲げています。社長に就任して以来、2022年度に新たに開催した社長タウンホールミーティングをはじめとして、できるだけ多くの社員との対話を心掛けてきましたが、こういったさまざまな機会を通じて、多彩・多才な社員が、志高く業務に励んでいるさまを肌で感じました。当社の「三綱領」の精神にある通り、オープンかつフェアに多様な価値観を持つ人材を分け隔てなく受け入れることが、一人ひとりが「イキイキ・ワクワク」働ける組織であるためには極めて重要であると強く感じるとともに、それによって会社は一段と成長するという想いを強くしました。この信念のもと、私自身が責任者としてDE&Iの推進に取り組んでいきたいと考え、新たにDE&Iワーキンググループを発足させました。こういった取り組みを経て多くの社員の意識が変わりつつあることも感じています。
ステークホルダーエンゲージメント
最後に、社長就任以降に大変印象深かった事項について述べます。株主・投資家・メディアなどさまざまなステークホルダーと対話する機会が数多くありましたが、当社に対する皆様からの想像以上に強い期待を直接肌で感じました。頂いたさまざまなお言葉を胸に経営に邁進していきますが、こうした対話も踏まえた具体的な対応例の一つとして、多様なステークホルダーとの対話をさらに強化することを目的として、2023年に新たにChief Stakeholder Engagement Officer(CSEO)を設置しました。私やCSEOを中心に、ステークホルダーの皆様とこれまで以上に積極的な対話を重ね、皆様の声に耳を傾けながら、MCSVの創出を通じた持続的な成長を目指していきます。
社長インタビュー
謙虚に、明るく、貪欲に取り組むということ。
これが私のスタイルです
代表取締役 社長 中西 勝也 × インタビュアー 進藤 晶子氏
Interviewer 進藤 晶子(しんどう・まさこ)氏
1994年TBS入社。「筑紫哲也News23」「ニュースの森」などを担当する。2001年3月TBS退社。その後、司会、執筆、朗読の他、各界のトップランナー数百人に取材するなどインタビュアーとしても活躍。2018年サントリーホール、2021年にはトッパンホールで朗読コンサートをプロデュースした。現在、毎週日曜朝7時半~「がっちりマンデー!!」(TBS)司会を務める。
進藤氏:本日は統合報告書2023の読者に向けて、中経2024に込めた想いや、社長のリーダーシップスタイルや経営哲学などについて、中西社長に色々とお伺いできればと思います。どうぞよろしくお願いします。
中西:本日はどうぞよろしくお願いします。
進藤氏:はじめにですが、中経2024には、「規律ある成長で未来へつなぐ」、「多様なインテリジェンスをつなぐ」、「多彩・多才なヒトをつなぎ」などさまざまな「つながり」についての記載が多くありますが、中西社長が特に重視している「つながり」は何でしょうか?
中西:自分自身の経験も踏まえてですが、やはり人ですね。人とどうつながっているのか。今取り組んでいる仕事の中には、もう何十年来お付き合いしている人との信頼関係を通して出てきたものもあります。ですので、そういったことは大事にしたいと思っています。
一例として、当社は地域創生を掲げて複数の自治体との連携を強化していますが、地域創生においてはその地域の方々とのつながりが非常に重要となります。電力事業などは30年もの期間にわたり事業を行いますので、地域の方々とは非常に長い期間のお付き合いとなります。昨今連携を強化している地域の方々は三菱商事に大いに期待してくれていますが、新しい事業を創出して地域にも貢献していくことで、地域の期待に応えていきたいと考えています。
また、次の世代にどのようにバトンを渡すのかという点も常に考えています。例えば今年入社した新入社員が経営を担う2050年頃に三菱商事がどのような会社になっているのかについての責任は、私にあると思っています。
進藤氏:やはり人とのつながりがビジネスの根幹を成すのですね。世界中で多様な事業を営む三菱商事を経営するに当たって社長として重視されている点や、特に意識している役割などはありますか?
中西:先程のお話にもつながりますが、重視しているのは社員や社外のパートナーとの対話ですね。その際に大事にしていることは、時間を惜しまないで厭わずによく話を聞くということです。一方的に話すのではなくて、話を聞くことによって悩みを知る。その中で最適な解決策を探っていく。社内での具体的な機会としては、社員とのタウンホールミーティングを定期的に開催したり、中堅若手社員と毎月会食したり、新入社員との対話なども行いました。
進藤氏:お忙しいスケジュールの中でかなりの時間を費やされているのですね。ただ、社員の方から本音を引き出すのは難易度が高そうですね。
中西:確かに本音を引き出すのは難しい場合もあります。社員達と食事をしても最初はなかなか本音を見せてくれません。それでも、そういうことを厭わずに粘り強くやり続けます。難しいですが、やらなかったらさらに分からないので。ただ、そうした中でも、特に若手の社員は忖度なく本音で質問してきますね。新入社員と私の対話においては、新入社員からさまざまな質問が寄せられて私が答えていたのですが、聞いていた社外の方から「三菱商事は本当にフリーですね。普通そんなこと社長に聞かないですよ」と言われました(笑)。
あと重要なこととして、三菱商事が多様な事業を営む会社である以上は、当然ですが、私自身が多様な知識を持っていないといけないと思っています。本も結構読んでいますが、やはり生きた情報が重要なので人と話すことからも多くのことを学んでいます。各業界のトップの方々との交流を通じて教えて頂くことも数多くあります。もちろん社内には各分野のエキスパートが揃っていますので、社員と話すことや現場の視察も重視しています。社長の役割というと一番上に立っていると言う人もいますけれど、私はむしろ、三菱商事グループ全体を自分が一番底から支えているという意識で務めています。全体を支えているわけですから幅広く知っている必要がありますし、やはり私が勉強しなければいけないことだと思っています。
進藤氏:中西社長が会社を経営するにあたってのご自身のリーダーシップスタイルや経営哲学についてはどのようにお考えでしょうか?
中西:経営哲学という大それたことかどうか分からないですが、正面から物事をきちんと捉えることが重要だと考えています。自分事としてきちんと捉えて、コミュニケーションやインテリジェンスを駆使しながら次の一歩を探り、リーダーシップを発揮して実行していきます。その際に意識していることは、謙虚に、明るく、貪欲に取り組むということ。これが私のスタイルですね。
進藤氏:今日のインタビューを通じて、イキイキと社長をなさっているように感じられます。
中西:やりがいは非常に感じています。脱炭素をはじめとして時代の変わり目であるので、そういう意味では面白いタイミングだとも思いますし、私だけではなくて、会社自身が成長するチャンスが大いにあると確信しています。
進藤氏:本日は色々なお話を有難うございました。
中西:こちらこそ有難うございました。