2021年3月期の振り返りと「中期経営戦略2021」の最終年度に向けて
大変厳しい決算なるも、着実な回復傾向
当社の2021年3月期の連結純利益は、前期と比べて3,628億円減益の1,726億円と大変厳しい決算となりました。これは、新型コロナウイルスの影響や資源価格の低迷を背景に、当社が強みとするオーストラリア原料炭事業をはじめ、LNG関連事業や自動車関連事業などにおいて大幅な減益となったことに加え、前期に計上したチリ銅事業再編に伴う利益の反動や当期に計上した(株)ローソン宛てのれんおよび無形資産の減損などの影響によるものです。
厳しい結果を真摯に受け止めて今後の取り組みにつなげていきます。一方で、減損などの一過性損益を除いた巡航利益は厳しい事業環境の中でも3,000億円超の規模を維持していること、食肉事業や石油事業、タイ自動車事業などはコロナ禍においても前期比増益となり業績を下支えしたこと、銅事業や鉄鉱石事業など市況の回復・上昇を取り込み始め増益となった資源事業もあることなどは正しく認識しておく必要があります。
また、2021年3月期第4四半期(3カ月)における一過性損益を除いた巡航利益は1,226億円となっており、季節要因や発電資産売却といった偏りを除いても、約1,000億円弱程度と四半期ごとに連結純利益は着実に回復してきています。
キャッシュ・フローは引き続き堅調に推移
連結純利益が前期比3,628億円の大幅減益となった一方で、営業収益キャッシュ・フローは6,252億円の収入と、前期比469億円の減少にとどまりました。これは、連結純利益の減益要因には、(株)ローソンに係る減損などキャッシュを伴わない損失が含まれていることに加え、当期より連結開始したEneco社が稼得するキャッシュ・フローが貢献し始めたことなどの影響によるものです。投資キャッシュ・フローは、HERE Technologies社宛ての投資実行に加え、欧州総合エネルギー事業やLNG関連事業における設備投資など8,034億円の支出となりましたが、財務規律を維持するため政策保有株式の売却や北米不動産事業における物件売却などを進めたことで4,461億円を回収し、全体では3,573億円の支出となりました。この結果、連結純利益が落ち込む中でも営業収益キャッシュ・フローと投資キャッシュ・フローを合計した調整後フリーキャッシュ・フローは2,679億円の収入となりました。
資源価格下落シナリオでも一定の耐性を織り込んだ見通し
2022年3月期の業績見通しは、前期と比べて2,074億円増益の3,800億円を見込んでいます。8グループで増益を見込むものの、いまだ回復途上にあるとの認識の下、引き続き不透明な外部環境を踏まえて策定しており、資源価格の下落にも一定の耐性を織り込んだ見通しとしました。
一方、2022年3月期第1四半期の連結純利益は1,876億円となり、業績見通し3,800億円に対する進捗率は49%となりました。これは、世界的な経済活動の再開に伴い、自動車関連事業などにおける需要回復や、銅や鉄鉱石といった資源価格の上昇など、事業環境の改善を、それぞれの事業で着実に利益に結び付けることができたためです。この結果を踏まえると、通期業績は3,800億円を上回る可能性が高いと考えられるものの、どの程度上回るのかを見定めるためには、足元の東南アジアをはじめとする新型コロナウイルスの感染再拡大の影響や高値圏で推移する資源価格の動向を慎重に分析する必要があり、第2四半期にかけて精査していく予定です。
また、2023年3月期以降に目を向けると、利益貢献の開始が期待される投資案件が多くあります。特に大きなものとしては、2023年3月期中の生産開始を見込んでいるペルーのケジャベコ銅鉱山や2020年代半ば以降に立ち上げ予定のLNGカナダが挙げられます。その他にも、データセンター事業の拡大や三菱自動車工業(株)におけるASEANでの新型車の投入、タングーLNGの拡張など、業績に重要な影響を与え得る案件は多数あります。引き続きこれらの投資が着実に利益貢献につながるよう、一つ一つの取り組みを丁寧に進めていきます。
なお、「中期経営戦略2021(以降、中経)」で示した2022年3月期の連結純利益9,000億円は一定の前提を置いて策定したものですが、2022年3月期での達成が難しいことについては重く受け止めています。主な差異としては、資源価格の前提の違いや新型コロナウイルスの影響などに加え、環境変化を踏まえ、財務規律の維持を優先させた影響などが挙げられます。まずは、コスト削減や赤字会社の整理を徹底するなど足場を固めつつ、事業環境変化に応じてビジネスモデルを変化させ、新たな価値創造に取り組むとともに、中経で掲げてきた循環型成長モデルを進めることで、いずれ結果につながっていくものと考えています。
- *1 調整後フリーキャッシュ・フロー:営業収益キャッシュ・フロー(リース負債支払い後)と投資キャッシュ・フローの合計
- *2 営業収益キャッシュ・フロー(リース負債支払い後):運転資金の増減影響を排除した営業キャッシュ・フロー(連結純利益(非支配持分を含む)-減価償却費-投資活動関連損益-未配当の持分法損益-貸倒費用等-繰延税金)にリース負債の支払額を反映したもの
近年、事業系分野での減損が続いていますが、その原因をどのように分析されているでしょうか?
A. 投資のタイミングは大きな要因の一つ。順張り投資のみとならないようにしていきます。
最近の投資を振り返ると、資源以外の投資で大きな減損が発生していることは大変真摯に受け止めています。大きな要因の一つは投資のタイミング、すなわち業績が上り基調にあるときに投資していたことにあると考えています。資源分野では過去の反省を生かした投資の決断をしてきましたが、事業系では結果的にそれができていなかったことが最大の反省です。この反省を生かし、順張り投資のみとならないこと、これをより一層心掛けることが重要だと考えています。
従来は分権経営により資産入れ替え等のスピード感を増すべく、営業グループ単位でキャッシュ・フロー管理を行う仕組みとしていましたが、これは同時に利益が出ているグループほど多く投資ができる構造でもあり、順張り投資を招きやすい制度であったのは事実です。分権と集権のさじ加減は絶対解のない難しい問題ですが、現中経では、稼得したキャッシュ・フローに応じた投資枠を各営業グループに付すことはせずに、Eneco社のような大型投資は全社としての投資規律の中で判断するなどの対応を取っています。
2021年3月期は前期比大幅な減益となりましたが、業績回復に向けた取り組み方針について教えてください。
A. 赤字会社の整理を徹底し、足場固めを進めます。
2021年3月期の業績が悪化している中、将来の業績回復に向けた施策として、赤字会社の整理に着手しています。赤字会社の整理を実行に移す過程では、売却損や引当金などの一過性損失が発生します。単年度の純利益だけを見てしまうと、発生した一過性損失によって赤字がなくなったことによるプラスの効果を上回ってしまうこともあるため、効果の測定が難しい場合もありますが、将来に赤字を持ち越さないということを主眼において取り組んでいます。赤字会社のうち、慢性的に赤字が続いている先の3分の2についてはすでに対応方針を固めており、残りについても早急に道筋を固め、今後発生する赤字額の削減を進め、今後の成長に向けて強固な基盤を構築してまいります。
株主還元、特に配当について、方針の変更はありますか?
A. 累進配当を維持し、2022年3月期配当は前期と同額の1株当たり134円を予定しています。
2022年3月期の配当は2021年3月期と同額の1株当たり134円を予定しています。2021年3月期は大幅な減益となりましたが、キャッシュ・フローは底堅く推移しており、財務健全性も維持されていることから、現中経でお約束の通り、減配せずに「累進配当」を継続するものです。なお、2022年3月期の業績見通しは第2四半期にかけて精査の上で、増益幅を見定めていく方針としておりますが、株主の皆さまへの期待に応えるべく、今後の配当方針は内外環境変化の動向を見据えながら検討していきます。
自社株買いに関しても、投融資レバレッジを勘案しつつ実施する方針に変更はなく、適正水準を下回った場合には機動的に対応を検討します。
次期中経が始まる2023年3月期以降については、現時点で具体的にお約束できることはありませんが、今後も株主・投資家の皆さまとの対話を重視していきます。