三菱商事のEX

EXの目指す姿

2021年4月の気候変動サミット、6月の主要7カ国首脳会議での討議など、世界的な低・脱炭素の動きはさらに加速しています。天然資源に限りのある日本において、LNGや原料炭を通じエネルギーの安定供給に深く関与し、社会的使命を担ってきた当社としても、一層の責任と覚悟を持ってこの流れに適応していく必要があります。エネルギーシステム変革への挑戦を通じ、事業ポートフォリオの進化を図り、環境課題への適合とエネルギー安定供給という社会的使命の両立に挑み、脱炭素社会の実現という壮大なテーマに向け、EX領域への取り組みを積極的に推進していきます。エネルギー・電力事業を管轄する3つのグループCEO(電力ソリューション、天然ガス、石油・化学ソリューショングループ)と経営企画部で構成する「エネルギー委員会」を2020年に立ち上げています。

エネルギー委員会の取り組みと
関連3グループCEOメッセージ

エネルギー委員会を設立した背景と役割

脱炭素社会への移行は、徹底的な電化促進とエネルギー・電力の低炭素化を中心として進んでいくことが想定されます。

この世界的な潮流への対応・取り組みは最早、全産業が抱える共通の課題です。この課題解決に向け、エネルギー・電力分野を中心とした中長期的なポートフォリオ戦略や最適な取り組み体制の討議を行う「場」として、2020年5月に関連する3グループCEOと経営企画部が主導する形でエネルギー委員会を立ち上げました。委員会では事業環境の認識統一やそれに基づく事業戦略を討議し、その結果を全社経営メンバーに答申しています。

エネルギー委員会の取り組み

カーボンニュートラル社会に向けて、エネルギー・電力分野で予見されるパラダイムシフトをテーマとして抽出し、ポートフォリオ・事業戦略を考察するため、発足以来、2021年3月期におおよそ月2回の頻度で委員会を開催、設定したテーマの仮説検証ならびに実行に際しての優先順位付け等を集中的に討議・議論しました。

主な検証テーマ

  1. LNG事業と発電事業によるシナジー
  2. 再エネの主力電源化に伴う電力インフラの変化
  3. 電力小売り分野における当社らしいアプローチ方法
  4. 発電と電力小売りの一体推進におけるシナジー
  5. 次世代エネルギーへの取り組み 2020年9月より関連6グループにて、次世代エネルギー分科会を発足

また、2020年7月には社外役員宛て説明、12月にはサステナビリティ・CSR委員会との合同開催も実施しました。

関係各所とのさらなる連携強化も図りながら、本委員会での議論を継続し、2050年カーボンニュートラル社会の実現に向けた当社らしい最適解を2022年3月期中に提示する方針です。

再生可能エネルギーの主力電源化に向けて

常務執行役員
電力ソリューション グループCEO
中西 勝也

再生可能エネルギー発電事業と次世代電力システムへの取り組み

脱炭素社会の実現に向けて、再エネ発電容量を2031年3月期に2020年3月期比倍増(3.3GW→6.6GW)を目指します。再エネの主力電源化に伴い、大型・大容量の洋上風力から小型・分散化の太陽光までさまざまな再エネの導入が加速度的に進んでいきます。再エネは究極のゼロコスト電源かつ分散型電源であり、これらの特性を生かし、地産地消型、地域完結型電力インフラへの移行が進むとみています。他方、再エネの間欠性を補うための需給調整機能の高度化が必要となり、従来のガス火力による調整力に加え、デジタル・AIを活用した発電量予測、VPP技術、蓄電池・EVの活用など新たな電力需給システム構築への取り組みにも挑戦しています。

発電事業における非化石比率100%へ

2050年に向けて、発電資産ポートフォリオのグリーン化を積極的に進め、再エネとゼロエミッション火力発電への切り替えにより、当社発電事業における非化石比率100%を目指していきます。

現実解としての天然ガス

常務執行役員
天然ガス グループCEO
西澤 淳

石炭・石油から天然ガスへの転換

脱炭素化に向けた再エネの増加に伴い、これまで以上にガス火力による電力需給調整機能の必要性は高まります。当社が強みを有するLNGは、燃焼時のGHG排出量が化石燃料の中で最も少ないクリーンなエネルギーであり、電力セクターにおける脱炭素化実現までの移行期間において、重要な役割を果たします。

さらに、アジアを中心に今後エネルギー需要の増加が見込まれる中、石炭・石油から天然ガスへのシフトというエネルギー源の転換を図ることは、大気汚染に苦しむ新興国において経済成長と環境課題解決を両立する有力な現実解となります。

また、天然ガスは次世代エネルギーとして目されるブルー水素・ブルーアンモニアの原料ガスでもあり、引き続き貴重なエネルギー資源の位置付けは不変であるとみています。

LNGの脱炭素化に向けて

脱炭素化の流れを受けて、比較的クリーンなエネルギーであるLNGについても、より環境面での改善が求められています。LNGのサプライチェーン上で発生するCO2の削減を進めると同時に、CCUSをはじめとするカーボンマネジメント事業を通じてさらに低・脱炭素化を進めることはネットゼロ実現に向けた重要な施策となります。

次世代を見据えたサプライチェーンの構築

常務執行役員
石油・化学ソリューション グループCEO
竹内 修身

エネルギーの脱炭素化

将来像として見据える水素社会の実現には、エネルギーそのものの脱炭素化が必要になります。再エネ由来のグリーン水素といった選択肢等も俯瞰的に分析・検討していますが、CCSを組み合わせたブルー水素が当面最有力候補になると考えています。

ブルーアンモニアバリューチェーンの構築

当社では、水素キャリアとして有望視されているアンモニア事業を従来より推進していることに加え、天然ガス・CCUSなどの産業知見や、グローバル・ネットワークを有しています。産業界全体の脱炭素化実現に向けて競争力のあるブルーアンモニアバリューチェーンの構築を目指します。

また、電力燃料としての水素・アンモニアの利活用によるゼロエミッション火力への取り組みにとどまらずモビリティや素材といった新たな分野への普及や、関連するインフラ整備も含めた社会実装を推進していくことが、当社の使命と考えています。

3つの観点での取組み

2050年カーボンニュートラル社会の実現を念頭に2022年3月期中に当社らしい最適解を提示予定
3つの観点での取り組みを通じて、産業界の持続的な競争力向上と環境課題の解決の両立を実現

GHG排出を回避する再エネ等の設備・事業の新規開発

再エネ発電事業の取り組みを強化し、再エネ発電容量を2031年3月期に2020年3月期比倍増(3.3GW→6.6GW)を目指します。

Eneco社の買収による再エネ事業の拡大

  • 2020年3月、再エネ発電持分容量1.6GW(2021年3月時点)を有するEneco社を買収。
  • 2020年7月、当社買収後の初号案件として、資源メジャーとのJVでオランダ洋上風力(Hollandse Kust Noord)を受注し、翌年2月にAmazonデータセンターに売電する長期契約を締結。
  • Eneco社を欧州電力事業の中核プラットフォームとして再エネ発電事業への取り組みを加速させると同時に、同社ノウハウの日本を含む他地域への展開を通じて、脱炭素化に向けた主体的な取り組みを推進。

分散型太陽光発電事業の拡大

  • 2016年、米国分散型太陽光発電事業者であるNexamp社に出資、2018年に子会社化。
  • 同社への出資以降、着実に資産を積み上げ、米国コミュニティ・ソーラー業界のリーディングカンパニーに成長。2GW超の開発パイプラインおよび建設・運転中資産を有する。
自然共生型太陽光発電事業(羊を使った除草の風景)

火力等の既存設備・事業におけるGHG排出量の削減

火力発電事業のダイベストメントや火力発電の低炭素化・発電時にCO2を排出しないゼロエミッション火力への移行に対する貢献を通じて既存設備・事業におけるGHG排出量を削減します。また、ゼロエミッション火力の早期社会実装に向けて、アンモニア・水素を含めた次世代バリューチェーンの構築にも注力していきます。

火力発電事業のダイベストメント

  • 2050年までに当社既存火力発電容量の削減およびゼロエミッション火力への切り替えにより、発電事業の非化石比率100%を目指す。
石炭火力発電の取り組み方針
  • 受注済み案件を除き、新規案件には取り組まない。
  • 2050年までに全ての石炭火力発電事業から撤退。

石炭・石油から天然ガスへの転換

  • 天然ガスを低・脱炭素社会への移行期における重要なエネルギー源と位置付けている。アジア新興国を中心に経済成長に必要なエネルギーとして、環境負荷の低いLNG事業を通じエネルギー安定供給の責任を果たす。
  • アジア新興国でのLNG需要開拓に取り組み、石油・石炭から天然ガス(LNG)への転換を主導することで、世界規模でのGHG排出量の削減を目指す。
アンモニア・水素バリューチェーン

アンモニア・水素バリューチェーンの構築

1. 製造
  • 天然ガスとCCUSを組み合わせたCO2フリーのブルーアンモニア・ブルー水素の製造・供給に関する実用化を検討。
  • ブルーアンモニア製造事業の検討を北米・中東・東南アジアを中心とした各パートナーと推進。
2. 輸送・利用(アンモニア)
  • (一財)日本エネルギー経済研究所・サウジアラムコ社と共同でサウジアラビアのブルーアンモニアを日本へ輸送するサプライチェーン実証検証に参画。
  • 電力業界との接地面を活用し、アンモニア混焼等の利用に関する検討を推進。
3. 輸送(水素)
  • 千代田化工建設(株)が開発した水素の大量輸送・貯蔵技術(SPERA水素)を活用し、ブルネイLNG社に水素化プラント、川崎市臨海部に脱水素プラントを建設した国際間水素サプライチェーンの実証完了。2020年代半ばの商業化を目指す。
ブルネイ水素化プラント
川崎脱水素プラント
  • 当社と千代田化工建設(株)・シンガポール民間5社でシンガポールの水素経済実現に向けた検討を推進。

残存する排出GHGのニュートラル化

Avoid/Reduceを経ても残存する排出GHGのニュートラル化に向けて、CCU/CCSの利活用等に取り組みます。

  • 当社では、グループ横断型のタスクフォースや連絡会を立ち上げ、CCUSの事業化を推進。

CCU

建築材料分野

生コンクリートなどさまざまな商材に適したCO2削減手法が必要となるため、さまざまな技術・企業との協業を組み合わせて各商材にアプローチし、CO2削減の最大化を目指す。

  • CO2-SUICOM
  • Blue PlanetSystems社
  • CarbonCure社
燃料・化学素材分野

CO2から衣類やペットボトルの原料として使用されるパラキシレンを製造する技術の研究開発に他5社と共同で取り組み中。

CCS

  • 2020年12月、オーストラリアSantos社とカーボンニュートラルLNGおよびCCS事業分野での協業検討を開始。
  • 当社も出資しているアンモニア製造会社のパンチャ・アマラ・ウタマ社と共にクリーン燃料アンモニア生産のためのCCS共同調査を実施。

カーボンクレジット開発・販売事業

  • 2021年5月、世界最大手のカーボンクレジット会社South Pole社と、CCUS等に由来するカーボンクレジットの開発・販売事業について共同検討を開始。

低・脱炭素社会に向けた
三菱商事のこれまでの取り組み

2020年からパリ協定が実施段階となり、温暖化防止を目指した国際社会の動きは加速しており、欧州をはじめ日本もカーボンニュートラルを2050年までに達成するという目標を打ち出しています。

三菱商事は企業理念である「三綱領」の精神に基づき、この流れが起こる前から、事業活動を通じて地球環境や社会への責任を果たし、経済価値・社会価値・環境価値の三価値同時実現による持続的成長に取り組んできました。

2010年代初頭のいまだ黎明期であった洋上風力発電にもいち早く参画し、再エネ事業における確固たる基盤を築いています。また、当社は1969年にLNGを日本に初輸入し、1972年にLNG事業に参画して以来、環境負荷の低いLNG事業の拡大を通じた安定供給により、低炭素社会への取り組みを加速してきました。その他、リチウムイオン電池事業や蓄電池事業など、低・脱炭素社会に向けたさまざまな取り組みを推進しています。

今後もエネルギーの安定供給と低・脱炭素社会の実現に向けたEXを積極的に推進します。

低・脱炭素社会に向けた取り組み

再生可能エネルギー事業の拡大

1987年に地熱・陸上風力発電などの再エネ事業に参画して以来、開発から建設・融資・運営まで主体的に取り組んでいます。2020年3月にはEneco社を買収し、さらなる再エネ事業の拡大に努めています。

  • 2009~2018
    2009~
    2010年
    • 米国で陸上風力発電事業(2案件)に参画
    2011年
    • スペインで太陽熱発電事業に参画
    • 英国で洋上風力発電所向けの海底送電事業に参画
    2012年
    • ドイツで洋上風力発電所向けの海底送電事業に参画
    • フランスで陸上風力発電事業に参画
    • メキシコで陸上風力発電事業に参画
    • カナダで太陽光発電事業に参画
    2013年
    • オランダで洋上風力発電事業に参画
    • フランス・イタリアで太陽光発電事業に参画
    • Eneco社との協業・戦略提携
    2016年
    • ベルギー最大の新規洋上風力発電事業に参画
    • 米国分散型太陽光発電事業会社への出資参画
    2018年
    • 英国で新規洋上風力発電事業への参画
  • 2020
    2020年
    • オランダ総合エネルギー事業会社Eneco社の買収
  • 2021
    2021年
    • ラオスMonsoon陸上風力発電への出資参画

原油上流からの撤退とLNG事業の拡大

LNG事業にひも付かないE&P事業(石油・天然ガス開発事業)からはおおむね撤退済みです。1969年に当社が手配したLNGが日本に初輸入されてから50年超。それ以来、環境負荷の低いLNG事業の拡大を通じエネルギーの安定供給に貢献しています。

  • 2011~2019
    2011年
    • 資源メジャーが参加しない初のオール・アジアプロジェクトであるインドネシア ドンギ・スノロLNGプロジェクトの最終投資決定
    2016年
    • インドネシア タングーLNGプロジェクトの拡張プロジェクトの最終投資決定
    2017年
    • パプアニューギニア天然ガス探鉱・開発事業およびガボン事業(保有2鉱区)売却(E&P事業)
    2018年
    • LNGカナダプロジェクトの最終投資決定
    • バングラデシュにおけるLNG受入基地事業への参画
    2019年
    • カンゲアン事業、アンゴラ事業、キンバリー事業売却(E&P事業)
    • 米国キャメロンLNGプロジェクトの生産開始

その他(電池事業、EV事業他)

当社の産業接地面の広さを生かし、リチウムイオン電池事業や蓄電池事業をはじめ、EV事業・CCUS等、低・脱炭素社会に向けたさまざまな取り組みを推進しています。

  • 2007~2019
    2007年
    • 車載用リチウムイオン電池製造事業に参画
    • 世界初の量産型EVであるアイ・ミーブ向けに2009年から量産を開始
    2016年
    • アイルランドElectroRoute社(電力トレーディング事業)への資本参画
    2017年
    • 欧州最大規模の蓄電システムを利用したサービス開始
    2018年
    • ローソン店舗を活用した電力小売りバーチャルパワープラント(VPP)事業への参入
    • 米国Boston Energy社(電力トレーディング事業)への資本参画
    2019年
    • ゼロエミッションEV船の開発・普及促進を目的とした共同出資会社を設立
    • 大規模太陽光発電設備・電動車リユース電池を活用した蓄電システムの導入
    • オフグリッド分散電源事業者 英国Bboxx社への資本参画
    • 英国エネルギー革新企業OVO Group社への資本参画
  • 2020
    2020年
    • ケミカルリサイクル事業(循環型PET製造事業)への参画
    • CO2を原料とするパラキシレン製造に関する開発に着手(CCU)
    • CO2有効利用コンクリートCO2-SUICOMの研究開発に着手(CCU)
    • 米国Blue Planet Systems社との協業契約締結(CCU)
    • NTTアノードエナジー(株)とのエネルギー分野における協業
    • シンガポール民間5社・千代田化工建設(株)とシンガポールの持続可能な水素輸入・商業利用実現に向けた協力
  • 2021
    2021年
    • CarbonCure社への資本参画および業務提携(CCU)
    • インドネシアクリーン燃料アンモニア生産のためのCCS共同調査
    • CCUS等由来のカーボンクレジット開発・販売事業に関わるSouth Pole社との協業開始